『なつぞら』の主人公・なつのモデルは、ご存知日本の女性アニメーター第一号。物語では「アニメーターになる」というのが、いわばなつの「最大の夢」です。しかしそれが早い段階で実現したせいか、波乱万丈のエピソードはあまりなくチマチマと似たようなエピソード、恋愛・結婚話の繰り返しに。朝ドラの名作『てるてる家族』のファンとして大森寿美男氏の脚本に期待していた一人としては、ちょっとハシゴをはずされた観があります。
一方の『おしん』は、テレビドラマ最高視聴率記録を叩き出した金字塔。奇しくも、こちらもスーパーマーケットの社長となった「女性の一代記」をヒントにした物語(あくまでヒントと脚本担当・橋田壽賀子氏)。その点、『なつぞら』と共通しています。
しかし、『おしん』の物語の展開力といったら段違い。時代と個人の物語がクロスし次からへ次へと話は転がり目が離せない。東北の貧乏な家に生まれ丁稚奉公から出発し、東京で髪結になり、羅紗店のボンボンに見初められ奥様となり子供も生まれ幸せと思ったとたん、関東大震災で工場をすべて失い……と浮いたり沈んだり、ハラハラドキドキ。手に汗握る物語が連日続いています。
対して『なつぞら』は……またもや兄・咲太郎の結婚話ですか。もうお腹いっぱい。
なつは戦災孤児として北海道で苦労して育ち、高度経済成長期の大東京へ乗り込んだ。激動の出来事も多々あったはずだし、アニメ業界の開拓者としても苦労の日々だったはず。残された1か月半の時間、もっと大胆に伸び伸びと物語を展開していってほしい。『なつぞら』に、秋風が吹かないことを祈ります。