「手術によって再発の心配がほぼなくなったのはありがたいのですが、術後は食事量が半分ほどに減って、体がやせ細りました。さらに、食事は1日6~7回に分けて取らなければならず、そのうえ食後30分は安静にしなくてはいけない。食事が楽しくないだけじゃなく、それ以外の生活にも制限が大きい」
日本人男性に最も多い胃がんは、I期の5年生存率が94.6%と100%近いが、術後にA氏のように落ち込む症例が少なくない。住吉内科・消化器内科クリニック院長の倉持章医師が指摘する。
「高齢者が胃を摘出すると、食事量が5~6割まで減って体力や筋力が激減し、術後のQOLが下がるリスクが大きい。身体が衰弱して他の病気になるケースもよく見られます」
現在、胃がんI期の標準治療は低侵襲(体に負担をかけにくい)の内視鏡手術だ。
「患部のみを内視鏡の先のナイフで切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が主流です。早期の胃がんでは、なるべく胃を残す治療をすべきです。内視鏡専門医がいない病院や、がんのできた位置によっては、開腹して胃を摘出する手術を勧められることがありますが、基本的には避けたほうがよいと考えます」(倉持医師)
全期の5年生存率が全がんの中で最も高い前立腺がんは、「切ると後悔するがん」の代表格だ。独協医科大学埼玉医療センター泌尿器科の小堀善友医師が指摘する。
「悪性度の低い前立腺がんは、2~3か月ごとに検査で数値をチェックする『監視療法』が治療の基本です。がんが見つかったからと慌てて手術に踏み切ると、男性器周辺の神経を損傷して、排尿障害やED(勃起不全)が生じるリスクがあります」