2002年当時のアマゾンの日本での売上高は約500億円(推定値)。それが2018年の売上高は、1兆5180億円(138億ドル)。30倍以上に成長した。国内の小売業者の売上高ランキングでいえば、5位のユニー・ファミリーマートHDを抜き去るまでに成長している。

 アマゾンは、小田原センターの広さを「東京ドーム約4個分」と表現している。それと比べると、市川塩浜のセンターは、せいぜい「小学校の体育館1個分」。どれぐらい違うかといえば、市川塩浜の場合、朝礼で顔を合わせたアルバイト仲間とは、1日のうちに何度も棚の間で行き違い顔を合わせた。しかし、小田原の場合、朝礼で顔を合わせたアルバイトと、そのあとの作業中に顔を合わせることはほとんどない。みんな広いセンターの中を散り散りになって、それぞれの作業に没頭する。小田原のセンターで働いているアルバイトは、通常1000人ほど。ホリデーシーズン前はそれが2000人に膨れあがる。

◆バイトがバイトを管理

 アルバイト初日、送迎バスに乗って午前8時半すぎに物流センターに到着する。私のシフトは午前9時から午後5時までで、拘束は8時間だが、45分の昼食時間と15分の休憩が2回あるので、実労働は6時間45分となる。時給は1000円で、15年前と比べると100円上がった。1階のロッカーのある更衣室で着替え、所持品をロッカーに入れてから、作業場に向かう。作業所内に持ち込みが許されるのは、メモ帳やボールペン、財布や腕時計ぐらいである。うるさいほど注意されたのは、携帯電話の持ち込みが厳禁であること。うっかり持って入ったら、警備員が携帯電話のなかの私的な写真や動画、メールの内容や電話番号などを全部確認して、問題がないと判断した上でないと返却されない。返却までに2、3日かかることもあるという。携帯電話内の情報を見せることを拒めば、その場で解雇となる。15年前と違い、今は携帯電話さえあれば、物流センター内のレイアウトや作業風景を写真や動画に撮って、外部に流すこともできる。しかし、アマゾンにとって物流センター内は、すべて企業秘密に相当する。

 4階の作業現場に行くと、青のビブス(ゼッケン)に《リーダー》と書かれた40代のおかっぱ頭でメガネをかけた女性が、作業初日のアルバイト約10人を集めてこう言い放った。

「PTGで85%以上は必達の目標値です。皆さんは作業開始の10日後にはこの数値が75%に達するよう努力して下さい。目標値を超えられない場合、われわれリーダーと、どうすれば生産性が向上するのかという話し合いを持たせていただきます」

 偉そうに語るこのリーダーとは何者なのか。アマゾンの作業現場には、「ワーカーさん」と呼ばれる私のような一番下っ端のアルバイトがいて、その上が《トレーナー》、さらにその上に《リーダー》がいる。一番上となるのは《スーパーバイザー》である。全員で400人いるピッキングのアルバイトのうち、トレーナーが20人、リーダーが10人、スーパーバイザーが5人といった感じか。いずれも時給で働くアルバイトに過ぎない。時給は「ワーカーさん」が1000円とすると、トレーナーは1050円、リーダーは1100円、スーパーバイザーは1200円──という程度だ。いずれも派遣会社と半年契約を結ぶアルバイトであり、アマゾンとの直接の雇用関係はない。要は、同じアルバイト同士である。そのアルバイトに序列をつけ、アルバイトがアルバイトを管理するようになっている。

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