おかっぱ頭のリーダーが語るPTGとは《パーセンテージ・ツゥー・ゴール》の略語である。ピッキング作業にはモトローラ製のハンディー端末を使うのだが、ピッキングのたびに、「次のピッキングまであと何秒」という表示が出る。たとえば、100回のピッキングで、100回ともハンディー端末が指示する時間通りにピッキングできれば、PTG100となる。その時間を、5回上回ればPTG105となり、5回下回ればPTG95となる。ここでは毎日、アルバイト全員の名前と順位、PTGの数字が一覧表となって張り出される。私は何度も、自分の名前を見つけようとしたが、自分の名前をランキングに見つけることは一度もできなかった。ただ、アルバイトの作業が常に見張られており、作業が目標に達しないと叱責されるという点は、以前と変わらないんだなぁ、と思った。
◆秒単位で見張られる
リーダーの簡単な説明の後、アルバイトは各自、ハンディー端末を使ってピッキング作業をはじめた。ハンディー端末の上半分には画面がついており、その下半分には、1から10までの数字と、アルファベットなどのボタンがついていた。前回の潜入時には、100件ほどの注文が紙に印刷された《ピッキング・スリップ》と呼ばれる用紙を手に持って、そこに印刷してある商品を探してきた。手作業だったのである。
現在は、まず、カートの上に緑色のトートと呼ばれるプラスチック製の折り畳み式のカゴを乗せる。トートに貼ってあるバーコードを端末で読み込むと、作業開始である。端末の画面上にピッキングすべき商品が表示される。「P-4 A241 C448 キジマ ボルトセット」──ピッキングの作業で重要なのは1行目である。
P-4というのは、4階を指す。2階から5階までの各階は、AゾーンからHゾーンに分けられている(1階は、入出庫と梱包用のスペースであるため商品は在庫されない)。次の「A241」は、Aゾーンの241番目の棚を意味する。各列には、下からAからJまでの棚がある(棚によって若干の違いがある)。この場合の「C448」ならば、棚の下から3番目である。その「448」番目の間仕切りに自動車部品のキジマ社製のボルトセットが入っているという意味だ。
そのビンの中に入っているいくつもの商品の中から、ボルトセットを探し出し、端末でその商品に貼ってあるバーコードを読み込む。ピッキングした商品が正しければ、緑の画面のまま、次にピッキングする商品が表示される。間違った商品のバーコードを打ったら、「ピーィピーィピーィ」という甲高い警告音とともに、「商品が間違っています」という赤い画面に切り替わり、正しい商品を探すまで、次の作業には進めない。つまり、端末を持った作業では、ピッキングでの間違いは起こりえない。人為的な作業ミスが極力発生しないようになっている。ハンディー端末がなかった15年前、このピッキングミスが物流センターの作業効率を大きく落としていた。
ボルトセットを正しくピッキングした後に出てきた商品は、「P-4 A241 A347 神田食品研究所 無糖レモン1・8L」という飲料水である。スキャナーの商品表示の下には、常に「次のピックまで○○秒」という文字が現われ、残り時間を表示する横棒が段々と短かくなっていく。たとえば、ボルトセットの「A241 C448」と無糖レモンの「A241 A347」は、同じ棚なのだが、ビンが違うということである。こうした場合、「次のピックまで15秒」というように表示され、1秒ごとに、横棒が右の15秒から左の0秒に向かって縮んでいく。これが女性のリーダーが言ったPTGに使われる数字だ。