実は大変な読書家でもある氏には毎作、「超えるべき水準」として意識する作品があるといい、本作はミヒャエル・エンデ『モモ』のオマージュでもあるとか。

「たぶん前作『ボダ子』の反動です。元々『モモ』は最も好きな小説の一つで、本当は『三丁目の夕日』みたいな後味のいい話も書きたいんです。なのに注文が来るのは暴力とか悲惨な話ばかり。今回の初ファンタジー作も、うんこというフックがあったから書かせてくれたんだと思う(笑い)」

 物語は冒頭、まだ2歳にも満たない純子の目の前で、夫に捨てられたと思いつめ心を病んだ母が、古井戸に身を投げるシーンで始まる。かつて祖母と廓から逃げて舌を抜かれた元ヤクザ者の祖父も、純子に色目を使う叔父も、生活のあてにはならず、毎月養育費を渡しにやって来る大学勤めの父も決して一緒に住もうとはしない。

 その点、この養育費と下肥汲みで孫の白粉代まで賄い、汲み賃を渋る家には〈胃の腑が腐ると、糞も苦うなるんじゃ〉と因縁をつけ、それを舐めるフリまでする祖母の逞しいこと。〈この里の連中は、オレたちをバカにしとるけどな、しょせん奴らもオレらと同じ糞袋よ。それを思い知らせてやるのが、バアチャンの務めやけに〉と彼女が言いきるように、その糞袋同士が傷つけあい、笑いもするのが、人間社会であり、赤松作品なのだ。

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