冒頭にあげた「何の物語かわからない」という声が出る最大の理由は、なつが仕事でわかりやすい成功を収めないから。なつはアニメーターとして素晴らしい実績を積み上げていくものの、それがどれくらいすごいことなのか視聴者はわからないのです。
たとえば、『あさが来た』『とと姉ちゃん』『まんぷく』は、主人公が仕事でのわかりやすい成功を収めて、視聴者に爽快感や満足感を与えました。一方、『なつぞら』は、そもそも「誰をモデルにした朝ドラなのか?」がわかりにくかった上に、なつが手がけるアニメも「どの作品がモデルなのか?」が不明瞭。前作『まんぷく』のチキンラーメンやカップヌードルと比べると、そのわかりにくさが理解できるでしょう。
ゆえに『なつぞら』は、「仕事で成功を収める」のではなく、「戦災孤児が温かい人々に囲まれて幸せに生きる話だった」ということ。だから「終盤の2か月間は仕事上のさらなる成功を描く」というより、お盆の段階から最終回に向けた早く長いソフトランディングをはじめているのではないでしょうか。
近年、実在の人物をモデルにした朝ドラが大半を占めるようになりましたが、そのことで「仕事の成功をどのタイミングで描くか?」「仕事の成功後に何をどう描くか?」という難題が浮上しています。
たとえば、『べっぴんさん』『わろてんか』の主人公は、「仕事での成功を収めたあとに、仕事と子育ての両立を描きながらソフトランディングする」という『なつぞら』と同じ構成でした。仕事の成功を描いた序盤から中盤にかけては盛り上がった反面、終盤は「余生を描いているみたい」「尻つぼみ」などのネガティブな声も少なくなかったのです。
逆に『まんぷく』は、序盤から中盤にかけて苦しい展開が続き、終盤に入ってようやく即席ラーメンを完成させることで、それらのネガティブな声を避けられました。ただその分、序盤と中盤で似たような苦境を繰り返したことに、ネガティブな声が飛んでいたのも事実です。
仕事の成功を中盤にするか? それとも終盤にするか? どちらにしても朝ドラは26週150話超の長丁場だけに、「中だるみ」「尻つぼみ」に陥らないためのハイレベルな構成力が問われることは間違いありません。
ただ、来春放送の『エール』から朝ドラは月~金曜の週5日放送に変わり、26話の短縮が予定されているだけに、これまでよりもペース配分がしやすくなるのではないでしょうか。
◆北海道シーン満載の終盤へ突入