(C)2019「ある船頭の話」製作委員会

「ある船頭の話」はオダギリジョーの長編初監督作品(C)2019「ある船頭の話」製作委員会

「そりゃ、意に沿わない仕事だってあるでしょ。これは70%オッケーだな、とか。誰でもあるでしょ、生きている人間にはみんな。すべて素晴らしい素晴らしいで来たら最高だけど、そんなわけなくてね。まあ、生きているということはそういうことだものね。それと、僕の場合、劇団をやってますから。こっちは何も“おあし”がないですけどね。僕は劇団から始め、そこが自分の場所ではありますし。劇団員70人もいるんですよ。そういうのが嫌いじゃないんでしょうね」

 柄本の仕事は、いまやどちらかというとシリアスな印象のものが多いが、一方で、笑いやコメディに対しても情熱を注いできた。

「基本は、何をするにしても、喜劇じゃないですかね。いま、軽演劇のいわゆる“アチャラカ”がなくなっちゃったのが残念ですよ。伊東四朗さんや小松政夫さんあたりを最後に。三木のり平先生とか渥美清さんのような喜劇ができればいいんですけどね」

 自身も笑いへの挑戦は続けている。バラエティ番組『志村けんのだいじょうぶだぁ』では、志村けんと名作コントも残してきた。

「志村さんとお仕事させていただくときは、ほんと緊張します。いまも怖いですね。志村さんの掌で転がされている、そんな感じです。同じことをやり続けていることがすごい。同じだけど、常にそれが新しい。ずっと笑いを考え、戦っているんだと思います」

 古希を迎えた職人的役者は、これからもひたすら作品を重ね、演技にさらに深みを帯びさせていくのだろう。が、柄本自身は、そんな気負いを一切見せない。終始シニカルなままだ。

「あぁ、この仕事って、くだらねぇなあ、と思えたらいいです。くだらないってことが僕なんかの中では最高なんですけどね。自分の仕事を素晴らしいとかっていうのは、どうも思わないなあ。縁遠いなあ。こういう映画を見てね、素晴らしいって言えりゃいいんだけど、自分の姿を見てね、舟漕いでいるのを見てね、やっぱりそうは言えないよね(笑い)」

新作では船頭を演じる

●えもと・あきら/1948年生まれ、東京都出身。1976年劇団「東京乾電池」をベンガル、綾田俊樹とともに結成、座長を務める。1998年『カンゾー先生』にて第22回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。舞台、映画、テレビドラマに多数出演し、2011年には紫綬褒章を受章。

◆撮影/江森康之、取材・文/一志治夫

※週刊ポスト2019年9月13日号

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
伊藤
【『虎に翼』が好発進】伊藤沙莉“父が蒸発して一家離散”からの逆転 演技レッスン未経験での“初めての現場”で遺憾なく才能を発揮
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
“もしトラ”リスクも…(写真/AFP=時事)
【緊迫する中東情勢】イラン・イスラエルの報復合戦、エスカレートすれば日本にも影響 “もしトラ”リスクが顕在化
週刊ポスト