溝口:それは確かだね。ときどき暴力団が事件を起こして危機感を煽ってくれないと困る。暴力団と警察は共存関係ですから。
鈴木:暴力団がいなくなって一番困るのはマル暴ですからね(笑い)。しかし今は暴力団が抗争で人を殺したら無期懲役が原則。事実上の終身刑ですから、警察の思惑通りに抗争するヤクザはなかなかいない。
溝口:それに、今は殺しても出頭しないケースが増えています。任侠山口組の織田絆誠組長のボディガードを射殺した山健組系のヒットマンのように、逃げ続けているのが多いわけです。今回の弘道会を襲ったヒットマンもそうでしょう(※8月21日に六代目山口組の中核団体である弘道会系組員が神戸市内の関連施設前で銃撃された)。もしかしたら、彼らはもう一度襲撃に使われるかもしれない。ヒットマンの“使い回し”です。
鈴木:昔は親分のために自分で考えて勝手に殺しに行く、っていうのがヤクザのやり方だったんですけど、今の若い衆に聞くと、チームを組んでプロジェクトにしないと動けないそうです。この人を殺します、あなたが実行犯です、サポートはこの人です、お金はコレ、殺した後はこう逃げましょうって全部プロジェクトとして設定しないと動けないと。“指示待ち組員”ですよ(笑い)。
溝口:しかしそれだと組織的犯行であることがバレやすいから、ますます実行できないでしょう。
鈴木:そして抗争が難しいとなれば、これまでのように大きい暴力団、マンモス組織が上に君臨するという暴力団社会の在り方は成り立たなくなりますね。
●みぞぐち・あつし/1942年、東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業。ノンフィクション作家。『食肉の帝王』で2004年に講談社ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『暴力団』『山口組三国志 織田絆誠という男』『さらば! サラリーマン』など。
●すずき・ともひこ/1966年、北海道生まれ。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。主な著書に『潜入ルポ ヤクザの修羅場』『ヤクザと原発』『サカナとヤクザ』など。
※週刊ポスト2019年9月20・27日号