ただし、在宅医療はそれに通じた医師やスタッフ、そして看取りに寄り添える理解ある家族がいるケースにおいてのみ可能だ。前出の大津さんが言う。

「家で苦痛が少なく亡くなるためには、家族の手助けが重要な位置を占めます。いざ在宅医療を始めてみても、想像していた状況と異なり、自宅で過ごすことにストレスを感じるようになった、というのはよく聞く話です。一方で、ひとり暮らしだからといって在宅が絶対に無理ということはなく、自宅で過ごしたいと強く希望するならば、在宅を選ぶことも可能。これはケースバイケースになってきます」

 ひとたび在宅医療を始めたとしても、家族が容体の変化に慌ててしまい、元の木阿弥となってしまうこともある。

「様子がおかしい、と動揺した家族が救急車を呼んでしまうことがある。すると、搬送先の病院で『延命の希望あり』としてさまざまな医療処置が施され、何本ものチューブにつながった最期を迎えるケースもあります。

 また、最近は在宅医療を実践する医師が増えていますが、病院の医療を自宅に持ち込むだけの先生もいる。患者さんからすれば、平穏死に理解ある医師を選べるかどうかがポイント。方針をよくチェックしておくべきでしょう」(長尾さん)

 たとえば、2016年にがんで亡くなったタレントの大橋巨泉さん。彼も在宅医療を選択したが、初めて訪れた在宅医から、こんな質問をされ、ショックを受けたと生前連載していた雑誌のコラムで明かしている。

《在宅介護の院長は、いきなりボクに「大橋さん。どこで死にたいですか?」と聞いてきた。ボクは、すでに死ぬ覚悟はできていたのだが、「えっ?俺もう死ぬの?」とぼう然とした》

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