国内

天才女流棋士・林葉直子 「余命1年」と宣告されて・後編

失踪騒動について、将棋会館で記者会見を開いた(1994年、写真/共同通信社)

 彼女は輝いていた。将棋界に颯爽と現れた天才少女。大人の好奇な視線を浴びながらも、けらけらと笑い、男たちをなぎ倒していった。ドラマやCMに出演し、小説を執筆すればベストセラーを連発した。

 彼女は堕ちた。永世名人との不倫を告白し、将棋界と決別。孤独を埋めるかのように酒をあおった。肝硬変を患い、郷里福岡に戻った。5年前、余命1年を宣告された。その事実を『遺言』と題された本に著し、ワイドショーなどでも話題になった。

 彼女は現在も生きている。

 林葉直子、51才。今何を想うのか。元「将棋世界」編集長で、12才の頃から林葉を見てきた作家・大崎善生氏が彼女のもとを訪ねた──。

 * * *

◆1979年──そこは女子はいちゃいけない場所だった

 病の発覚に前後して福岡の父親が死んだ。将棋を教えてくれた父であったが林葉にとってはどうしようもない父親だった。警察官で外面的には生真面目なのだが、家庭内での暴力がひどい。

 中学1年で米長家(米長邦雄永世棋聖)の内弟子となり東京へ出た林葉は、貯金通帳や印鑑をすべて父親に預けた。そこには後にいくつもタイトルを獲り、また20冊以上ものベストセラー小説を書いた、賞金や印税が振り込まれていた。それらをすべて勝手に使われてしまったという。目的は女遊び。

 福岡の将棋大会で男子(森下卓九段)を破り優勝し、東京へ出た林葉は奨励会(※)試験に合格し6級で棋士生活をスタートさせていた。女流棋界には進まずに奨励会員として棋士を目指すというのが、米長の弟子となる条件だった。

 ある日、千駄ヶ谷の将棋会館で小さな事件が起こった。

 林葉は奨励会員、私はあの袋小路のような将棋道場から奇跡のように抜け出し、将棋連盟の職員として働き始めたところだった。将棋会館の廊下で騒ぎ声が聞こえる。

(※)奨励会
 プロ棋士になるためには、奨励会という養成機関に入り、昇級、昇段していかなければならない。四段にまで進めばプロ。そのためには、年2回の三段リーグで上位2名に残らなければならない。一年でたった4人しかプロ棋士になれない仕組みだ。また年齢制限もある。〈満21才の誕生日までに初段、満26才の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる〉(日本将棋連盟公式サイト)。ちなみに、女性で三段リーグを勝ち上がったプロは、過去に例がない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン
アメリカから帰国後した白井秀征容疑(時事通信フォト)
「ガイコツが真っ黒こげで…こんな残虐なこと、人間じゃない」岡崎彩咲陽さんの遺体にあった“異常な形跡”と白井秀征容疑者が母親と交わした“不穏なメッセージ” 〈押し入れ開けた?〉【川崎ストーカー死体遺棄】
NEWSポストセブン
ジャンボな夢を叶えた西郷真央(時事通信フォト)
【米メジャー大会制覇】女子ゴルフ・西郷真央“イップス”に苦しんだ絶不調期を救った「師匠・ジャンボ尾崎の言葉」
週刊ポスト
元交際相手の白井秀征容疑者からはおびただしい数の着信が_(本人SNS/親族提供)
《川崎ストーカー死体遺棄》「おばちゃん、ヒデが家の近くにいるから怖い。すぐに来て」20歳被害女性の親族が証言する白井秀征容疑者(27)の“あまりに執念深いストーカー行為”
NEWSポストセブン
赤西と元妻・黒木メイサ
《赤西仁と広瀬アリスの左手薬指にペアリング》沈黙の黒木メイサと電撃離婚から約1年半、元妻がSNSで吐露していた「哺乳瓶洗いながら泣いた」過去
NEWSポストセブン
前回のヒジ手術の時と全く異なる事情とは(時事通信フォト)
大谷翔平、ドジャース先発陣故障者続出で急かされる「二刀流復活」への懸念 投手としてじっくり調整する機会を喪失、打撃への影響を危ぶむ声も
週刊ポスト
単独公務が増えている愛子さま(2025年5月、東京・新宿区。撮影/JMPA)
【雅子さまの背中を追いかけて単独公務が増加中】愛子さまが万博訪問“詳細な日程の公開”は異例 集客につなげたい主催者側の思惑か
女性セブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《永野芽郁のほっぺたを両手で包み…》田中圭 仲間の前でも「めい、めい」と呼ぶ“近すぎ距離感” バーで目撃されていた「だからさぁ、あれはさ!」
NEWSポストセブン
連日お泊まりが報じられた赤西仁と広瀬アリス
《広瀬アリスと交際発覚》赤西仁の隠さないデートに“今は彼に夢中” 交際後にカップルで匂わせ投稿か
NEWSポストセブン
不倫疑惑が報じられた田中圭と永野芽郁
《離婚するかも…と田中圭は憔悴した様子》永野芽郁との不倫疑惑に元タレント妻は“もう限界”で堪忍袋の緒が切れた
NEWSポストセブン
成田市のアパートからアマンダさんの痛いが発見された(本人インスタグラムより)
《“日本愛”投稿した翌日に…》ブラジル人女性(30)が成田空港近くのアパートで遺体で発見、近隣住民が目撃していた“度重なる警察沙汰”「よくパトカーが来ていた」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
「週刊ポスト」本日発売! トランプ圧力で押し寄せる「危ない米国産食品」ほか
NEWSポストセブン