◆「分断」から「連携」へ
もはや世界は後戻りできない袋小路に迷い込んでいるかのようだ。しかし私は、だからこそ、これ以上、世界の分断は進まないと見ている。トランプ大統領らの自国第一主義の限界や神風ドローンの脅威を考えれば、世界はここで改めて「連携」「協調」への道を模索せざるを得ないと思う。
アメリカは制裁の強化によってイランの孤立化を狙っているが、それは無謀なことだ。イスラエルを守るためなら、ヨーロッパを巻き込んで交渉していくことは十分可能である。同様に、シリアやロシアも封じ込めずに抱き込んでいくほうが賢明だろう。というのは、疎外されたアルカイダやIS(イスラム国)の動向を見れば、結果は明らかだからである。いわゆる“第三項(他者)”を力で抑えつけて排除しようとすれば、逆に世界は不安定化するのだ。
あるいは、なぜ国連の常任理事国にロシアと中国が入っているのか? なぜ国連の事務総長は初代のトリグブ・リー(ノルウェー)から現職の(第9代)アントニオ・グテーレス(ポルトガル)まで、すべて大国以外から選出されているのか? あるいは、なぜEUの本部はベルギーのブリュッセルに置かれ、EU議会がドイツとフランスが領土を奪い合ったアルザス・ロレーヌ地方のストラスブールにあるのか? それが「United」や「Union」、すなわち「連合」を象徴するからだ。こうした戦後の歴史に今こそ世界は学ばねばならない。
そして日本はこれ以上、偏狭な自国第一主義やポピュリズムに陥ることなく、世界に「連携」を呼びかける先達となるべきである。
●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。『日本の論点2019~20』『50代からの「稼ぐ力」』等、著書多数。最新刊は『「国家の衰退」からいかに脱するか』。HPはhttp://www.kohmae.com
※週刊ポスト2019年10月18・25日号