国内

息子の大学進学を叶えるために40代の父は特殊詐欺に加わった

府中刑務所門(時事通信フォト)

府中刑務所門(時事通信フォト)

 かつて特殊詐欺に加わる人は、もともと不良グループメンバーだったとか、半グレと呼ばれる集団に所属するような若者が中心だった。ところが数年前から、生活苦に悩まされる普通の人たちが、特殊詐欺の構成員になり、逮捕されることが増えてきた。成人した子供もいる40代男性がなぜ、特殊詐欺に関わり逮捕、刑務所生活を送ることになったのか。ライターの森鷹久氏がレポートする。

* * *
「詐欺だってわかってました、でもやるしかない。生きるためです」

 2014年に特殊詐欺の受け子をして逮捕され、春に晴れて出所し「シャバに出てきた」という無職・秋本俊二さん(仮名・40代)。現在は、厚労省が実施する求職者支援制度を利用し、月に10万円の給付金を得ながら、プログラミングを学ぶ為のスクールに通う日々。東京都下の自宅は今時珍しいトイレ共同の古い木造アパートで、家族は収監中に去った。連絡先もわからず、名実ともに「独り身」だ。

「自動車工場の期間工をやっていた時に誘われたのが受け子でした。金を受け取りに行くだけの仕事、と言われて疑わないはずがない。しかし、息子が大学進学を望んでいたし、期間工の給与だけではとても間に合わない。自身の小遣い稼ぎにもなるかもしれないと思い、安易にやってしまった」(秋本さん)

 秋本さんの妻は、結婚から15年ほど経った時に難病に侵された。それまで、映像制作会社で働いていた秋本さんは、病院への付き添いや看病のために仕事を辞め、妻に付きっ切りで寄り添ったが、そんな最愛の妻も、2010年にこの世を去る。

「仕事はない、でも子供は育てなきゃいけない、妻を亡くしたショックもある。工員をやってなんとか生活していましたが、もうどうにもならないと思いました。いっそ、保険に入って死のうか、その方が子供に金を残せると」(秋本さん)

 そんな時、秋本さんに悪魔の囁きをしてきたのが、期間工時代の同僚だった。

「元暴力団組員だと言っていましたが、本当のところはわかりません。年齢も近く、なんでも話せる仲でした。自分もやっているからと言われ、犯罪でもなんでもいいと、自身を押し殺してやりました」(秋本さん)

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン