◆マーケティングのプロに資生堂ブランドの再生を託す
そもそも資生堂が魚谷氏にブランドの再生を託したのは、前職の日本コカ・コーラで数々のヒットCMを手掛け、マーケティングの伝説的なプロだったからだ。前田新造社長(当時)からマーケティング分野の統括顧問として「エリクシール」「マキアージュ」「SHISEIDO」の主力ブランド刷新の助言を求められたのが始まりだ。
最初は資生堂マーケティングの統括顧問に就任した魚谷氏だったが、顧問でありながら販売子会社や専門店に足を運び、現場の担当者の生の声に耳を傾けた。そして、“ポスト前田”の後任人事の選定が本格化した2013年秋、前田氏は社外取締役らで構成する役員指名諮問委員会に魚谷氏を後継候補として推薦した。
低迷を続ける自社ブランドを再生させるためには、マーケティングを重視する必要がある、との前田氏の主張が通り、全会一致で魚谷氏を社長に迎えることを決めた(就任は2014年4月1日)。140年を超える歴史を誇る同社で、役員経験のない外部の人間が、初めて社長の椅子に座った。
「化粧品のイロハも分かっていないド素人に何ができる」と、当初、社内の空気は冷ややかなものだったが、それから4年、プロ経営者は数字で“経営力”を証明してみせた。
◆再生の3つのキーワード
魚谷氏が資生堂を再生させたキーワードは3つだ。高価格帯の化粧品、インバウンド(訪日観光客)、そして米トランプ大統領である。別の言葉でいえば、プレステージブランド、ボーダレスマーケティング、そして米国の税制改正となる。
プレステージブランドとは、購入することが地位の高さを証明すると認められるような高価格帯戦略をいう。そして、インターネットの普及により国境の壁をなくして売り込む販売手法がボーダレスマーケティングだ。
プレステージブランドでは「SHISEIDO」や「クレ・ド・ポー ボーテ」といった高価格帯の化粧品に注力した。中国人観光客に焦点を当て、日本でプレステージ化粧品を手にとってもらい、帰国後、中国で購入してもらうというのがボーダレスマーケティングの肝(きも)である。2019年4月には中国の通販大手、アリババ集団と業務提携を結び、9月からアリババ「天猫(ティーモール)」で共同開発したシャンプーの独占販売を始めた。