定期テストに関しては生徒総会では結論は出なかった(10月17日)

 ところがである。定期テストの廃止から1年も経たないというのに、生徒から「定期テスト復活」の声。実は昨年総会後に、「私は定期テストのほうがいいのに…」と、西郷校長に不平を言いに来た生徒がいた。反対意見があるのなら、それをその場で主張すべきだったと生徒に西郷校長は説いた。声を上げないと同意したとみなされることは、社会に出ても同じ。それを学んでほしいからだ。

 ただし、昨年と違って今年の生徒総会では、発案者以外からは意見は上がらず、議論にならないまま持ち越しとなった。「今年はまるでしゃんしゃん総会」と西郷校長は残念そうだ。

 だが、全校生徒で決めたことに真っ向から反対する意見をステージ上で述べるだけでも、相当な勇気と行動力があるといえる。全校生徒を敵に回す可能性もあり、ほかの学校なら「生意気だ」と言われかねないだろう。

 ここ桜丘中学校の生徒総会の重みは、他校のそれと異なる。実際、総会で決まったことが、学校を大きく変えてきた歴史がある。
 
 2013年の総会では、「この日だけは私服で学校に登校する」という「カジュアル・デー」を生徒会が提案し、議決された。これがひとつのきっかけとなって、桜丘中学校では、普段でも私服での登校が許されるようになった。この試みは広がり、2019年春より世田谷区内の中学校すべてで「カジュアル・デー」を設けている。

子ども中心の学校づくりを行う西郷孝彦校長

 西郷校長が期待しているのは、生徒自身の手で、学校をよりよくしていくこと。おかしいと思ったら、意見を口に出す。反対意見が出たら、正々堂々と意見を闘わせる。西郷校長が校則のない学校を作ったのは、「自分でものを考え、行動する習慣」をここで身につけ、社会で実践できる人間になってほしいからだ。

「先日、卒業生が来てこんな話をしてくれました。彼はいま現役の高校生ですが、その高校におかしな校則が多数あって、それを変えたい思っているのだそうです。桜丘中学校では、生徒の提案に対し、“じゃあ具体的にどうするといいと思う?”と教員から返ってきた。でもその高校では、“気持ちはわかるよ。でも現実的には難しいの、わかるよね?”と、結局は教員が否定するそうです。でも彼は、“いつか中学校の先生になって、今度は自分が、生徒の希望を叶えるサポートをしたい”と話していました。うれしかったですね。彼は自分なりの“世界を変える方法”を見つけたわけですから」(西郷校長)
 
 定期テストか小テストか、桜丘中学校の試行錯誤は続く。が、それは生徒らが“自分たちでものを考えている”という証拠でもあるのだ。

◆西郷孝彦(さいごう・たかひこ):
1954年横浜生まれ。上智大学理工学部を卒業後、1979年より都立の養護学校(現:特別支援学校)をはじめ、大田区や品川区、世田谷区で数学と理科の教員、教頭を歴任。2010年、世田谷区立桜丘中学校長に就任し、生徒の発達特性に応じたインクルーシブ教育を取り入れ、校則や定期テスト等の廃止、個性を伸ばす教育を推進している。11月11日に著書『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』が発売予定。

撮影/浅野剛

関連記事

トピックス

運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏に「自民入りもあり得るか」聞いた
【国民民主・公認取り消しの余波】無所属・山尾志桜里氏 自民党の“後追い公認”めぐる記者の直撃に「アプローチはない。応援に来てほしいくらい」
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
遠野なぎこさん(享年45)、3度の離婚を経て苦悩していた“パートナー探し”…それでも出会った「“ママ”でいられる存在」
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
《産後“ファッション迷子期”を見事クリア》大谷翔平・真美子さん夫妻のレッドカーペットスタイルを専門家激賞「横顔も後ろ姿も流れるように美しいシルエット」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
「週刊ポスト」本日発売! 石破政権が全国自治体にバラ撒いた2000億円ほか
NEWSポストセブン