そんな強盗慶太の痛恨事は1938年の三越乗っ取り事件だった。五島は老舗の経営陣を吊し上げ、激しい攻勢をかけた。だが、政財界の賛意を得られず断念する。彼が手を引いた直後に、三越トップが日比谷の街角で死体となって発見された──死因は急性疾患だったものの、暗殺説や心労説が飛び交い、五島には非難が殺到した。

 それでも五島が傑物だったことは間違いない。現代に継承されるビジネスモデルを成功させている。

 日本屈指の高級住宅街として有名な田園調布は、五島なしに存在しない。大正末期、彼は45万坪という広大な土地に鉄道を走らせ、都心と郊外を繋げてみせた。これにより欧州で提唱された田園都市建設、庭園都市構想が東京で実現する。知識階級の労働者が、都会で働き郊外の自宅で快適に暮らす斬新なライフスタイルが誕生したのだ。

 しかも五島は田園調布を安売りしていない。当初の宅地は一区画300坪という規模で販売されている。同時に道路計画と緑化計画を徹底し、公園や広場、街路樹を整備したのも慧眼だった。おかげで、田園調布は豪奢な邸宅がゆったりと並ぶセレブな街並みとなり、高級感がいっそう増した。

 田園調布のノウハウは、今日の東横線や田園都市線でのハイソなイメージ醸成に活きている。両路線が「住みたい沿線」ランキングで上位なのは周知のこと。ただし、さすがの五島も令和の巨大台風で田園調布はもとより、二子玉川や武蔵小杉が浸水災害に遭うことまで予測できなかったが……。

 五島は「すべての事業は沿線住民の生活向上のため」と強調してやまなかった。その手腕は、「片田舎」と揶揄されていた渋谷を、現在の繁栄に導いたことでも歴然としている。ターミナル駅にはデパートをはじめ商業施設、郊外に宅地やリゾート施設という“鉄道経営の鉄則”を実証したことも大きい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
3年間に合計約818万円のガソリン代を支出していた平口洋・法務大臣(写真/共同通信社)
高市内閣の法務大臣・平口洋氏が政治資金から3年間で“地球34周分のガソリン代”支出、平口事務所は「適正に処理しています」
週刊ポスト
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
米大リーグ、ワールドシリーズ2連覇を達成したドジャースの優勝パレードに参加した大谷翔平と真美子さん(共同通信社)
《真美子さんが“旧型スマホ2台持ち”で参加》大谷翔平が見せた妻との“パレード密着スマイル”、「家族とのささやかな幸せ」を支える“確固たる庶民感覚”
NEWSポストセブン
モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
《交際説のモデル・Nikiと歩く“地元の金髪センパイ”の正体》山本由伸「31億円豪邸」購入のサポートも…“470億円契約の男”を管理する「幼馴染マネージャー」とは
NEWSポストセブン
高校時代の安福容疑者と、かつて警察が公開した似顔絵
《事件後の安福久美子容疑者の素顔…隣人が証言》「ちょっと不思議な家族だった」「『娘さん綺麗ですね』と羨ましそうに…」犯行を隠し続けた“普通の生活”にあった不可解な点
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン