◆ハウスマネー効果の落とし穴
実際に、行動経済学の実験によると、苦労して少しずつ稼いだお金よりも、幸運で得られたお金のほうが、いっぺんに使われやすいという結果が出ている。これは、「ハウスマネー効果」といわれる。「ハウス」はカジノなどの賭博場の意味で、賭博で儲けたお金は大胆に使われることが多いことから、そう呼ばれている。
ギャンブルや投機的に資産の運用をする場合、ハウスマネー効果に注意が必要だ。たとえば、あるとき短期の為替取引で50万円を儲けたとする。この50万円は、たまたま幸運で得られたもののように考えられがちだ。
すると、「どうせ幸運で手に入ったお金なのだから、たとえ失ったとしても、気にならない」と考えやすくなってしまう。そして、「50万円までは損をしてもいい」と考えて、さらに大胆な短期の為替取引に取り組むこととなる。よくありがちなケースだ。
取引で儲けが続けば問題はないが、うまくいかないときも当然ある。せっかく得られた50万円を、全部失ってしまうこともあり得る。このときが、問題となる。
◆ギャンブラーの誤謬(ごびゅう)とは
いさぎよく売買から手を引くことができればいいのだが、人間の心はなかなかそう簡単には割り切れない。心の中の悪魔は、きっとこんな風にささやく。
「この前、あっさりと50万円も稼げたじゃないか。儲かるか損するか、どうせ2つに1つだ。最近こんなに損が続いたのだから、もうこれ以上、損をするはずはない。つぎの売買で、きっと儲けられる。そういえば、生活のために蓄えてきたお金があった。あれを少し使って、儲けた後で戻しておけばいい。きっとうまくいく……」
ずっと損が続いたから、つぎこそ儲けられる、という考え方は、「ギャンブラーの誤謬」といわれる。
為替相場などが、何日間か連続して下落した後には、そろそろ上昇しそうだという気がするかもしれない。しかし、経済学的にも、数学的にも、それを裏づける合理的な根拠は何もない。
ハウスマネー効果と、ギャンブラーの誤謬が組み合わさると、投機上の悲劇が起こりやすくなる。こうした悲劇は、古くから発生しており、小説やテレビドラマ、映画等で何度も繰り返して描かれてきた。
投機を始めるときには、心の中で、苦労して稼いだお金と、幸運で得られたお金の間に、仕切りを入れておいたはずだ。それなのに、投機で損をしてしまうと、「どうせお金に色はない」として、都合よくその仕切りを取り払ってしまう。同時に、損は続かないとする根拠のない自信が、さらなる投機を後押しする。
宝くじの場合も、投機と似た心理が生まれやすい。