従来、私は香港のデモには動機に一定の理解を示しつつも、公共施設や商店の破壊行為には批判的な立場で記事を書いてきた。笑ってふざけ合いながら駅に火をつけている勇武派の姿は私自身が現地で目にしたし、同様の話は他の人の証言でも聞いている。
こうした破壊行為に携わるのは多くが10代の若者たちで、カラーギャング的なガラの悪さを感じさせる人も少なくない。少なくとも一部のデモ隊は、暴力が自己目的化してコントロール不能に近い状態に陥っているように見えた。
──ただ、選挙前後に現地に渡航した際の肌感覚や選挙の結果を受けて、私は評価を多少修正した面がある。
◆デモ隊vs警察の対立は続く
それを強く実感させたのは、11月第3週に勇武派が複数の大学を占拠して警官隊と極度に激しい衝突を繰り返した後に、10日間ほどピタッと「休戦」したことだ。これはちょうど区議会選前後の期間と一致する。選挙後にはデモや集会が再開されたが、しばらくは以前とは比較にならないほど平和的な抗議運動が続き、それまで荒れ狂っていた過激な抗議はなにかの間違いではなかったかと思えたほどだ。
こうしたデモの沈静化は当初、激しすぎる大学占拠に市民から「やりすぎ」とみなすムードが出はじめたことや、1000人を越える逮捕者が出て勇武派の力が弱まったこと、逮捕者を通じてデモ参加者の情報が警察側に流出したこと、暴力行為の容疑者に多額の賠償金を課した判決が出ていることなども理由ではないかと思われていた。
だが、警官側が再びデモ隊に催涙弾を撃った12月1日以降は、再び勇武派が暴れはじめ、彼らがターゲットにしている吉野家や元気寿司などの店舗の破壊も再開された(ちなみに香港の吉野家や元気寿司は日本本社と資本関係がない現地フランチャイズで、運営元の美心集団が「親中的」とみなされたことでデモ隊から目の敵にされている)。
つまり、香港のデモ隊の暴力行使は、その気になれば停止も再開もコントロールが可能だったということだ。10日間ほどの「休戦」も、別に大量の逮捕者が出たことや厳罰をおそれたことが理由ではなく、民意を示すチャンスの前後に騒ぎを起こさず予定通りに区議会選を実施させる戦略的な判断にもとづく行動だったのである。そういえば過去も、中華圏の祭日である中秋節など特定の日には暴力が停止されていた例がある。