午後9時40分、待ちに待った蔡英文がステージに姿を現わした。支持者の興奮は頂点に達した。
「おめでとう! ありがとう!」──大歓声の中、蔡氏が演説を始めると群衆が静まり返った。
「私たちは引き続き、台湾を守り、民主を堅持し、改革を進めます。皆さん、私たちが全員でこの“自由の地”“民主の城”を守り抜いたのです。同時に全世界の民主国家も、そして多くの香港の友人たちも今日、私たち全員で決したことを喜んでくれていると信じます」
噛みしめるように話す蔡英文。極めて理性的だ。
「台湾人の声、民主の声が世界に届きました。対岸(中国)には、この台湾人の選択を直視するよう言いたい。台湾海峡の安定を維持する責任が双方にあります。北京政府に平和・対等・民主・対話を心からお願いしたい。この8文字が、長く両岸に安定的な発展と交流をもたらすでしょう」
私は、台湾総統選を長く見てきている。8年前の総統選で当時の馬英九総統に挑戦して敗れた時の蔡英文の姿も見ている。どこか頼りなげで自信のなさそうな表情は忘れられない。だが4年後の2016年、国民党の朱立倫候補と争って政権を奪取した時は、心の中の高揚感が手に取るようにわかる演説ぶりだった。
だが、今回は違った。興奮することなく、群衆一人ひとりに話しかけるような落ち着きをもった演説だった。
また成長した──私は、年と共に成長する蔡氏の姿に感慨を新たにした。