「直参1年目はさらに制約がある。服装は紺のスーツに白のワイシャツと決められ、ボタンダウンはダメだ」
“直参”とは組織のトップから直接盃を受けた者のことで、山口組でいえば“プラチナ”になる。プラチナになったとはいえ、まだ1年目の組長は、集まりや会合となれば指定されたファッションで出向かなければならないのである。
「好き勝手するのがヤクザの本分なのに、あれはダメ、これもダメ。あげくには、義理の時の服装まで決められ…」
不平不満はあるようだが、誰もそれを口にはしない。それがヤクザ社会である。
服装に厳しい決まりがある山口組だが、時折メディアで目にする六代目山口組の司忍組長の服装は、ちょいワルファッション以上にインパクトがある。
「本家にはコーディネーターがついている。家だけでなく、移動するワゴン車の中にもズラリとスーツを運び入れ、その日に着る物をコーディネーターが決めている」
ネットで検索すると表れるボルサリーノ風の茶色の帽子や首にかけた白の長いマフラーといった独特のファッションは、コーディネーターがチョイスしているのだそうだ。
この“コーディネーター”というのは専門のスタイリストではなく、センスのある組の者が務めているらしい。ちなみに本家がスーツを仕立てているブランド名をいくつか挙げてくれたが、どれも庶民にはそうそう手が出せないイタリアのハイブランドばかりだった。
「プラチナの人が集まれば車、服、時計に病院や薬の話ばかり。車は昨今、アルファードのような車が主流。色は黒や白。乗り降りが楽だし、車内が広いからね。人が乗っていれば自分も欲しくなる。人が着ていれば、身につけていればそれが欲しくなる」
「いい車に乗って、いい物を着て、いい店で飯を食って、いい女を連れて…。その人みたいになりたいと見た目で憧れる。しゃべり方から何から何までマネてみる。ヤクザの業界は特に、リスペクトしている人のマネから入るのが近道だと考えられている」
だが最近、若い者がマネしたいと憧れるヤクザは減っているという。
「昔は憧れるような組長がたくさんいたんだが、今は男がカッコいいと憧れるカリスマ性のあるヤクザが少なくなった。リスペクトされなければ人はついてこない。憧れもないのにわざわざヤクザになろうとする若い者は、今どきいない。半グレのほうがよほど自由で楽に稼げるからね」
暴力団排除条例などでシノギがなくなり稼げなくなったと言われるヤクザ業界は、今や一時の勢いを失い縮小傾向にあるが、人が減っている理由はどうやらそれだけではないらしい。