一方で、ちんたらちんたらと、いつまでも走り出さない馬もいる。あれは穏やかにゲートインさせたい意図があるらしい。オーバーワークになりやすいタイプは、返し馬で他に絡まれるとスイッチが入り、スタートから引っかかってしまうことも。騎手はそれを避けているのかも。人の指示に従順な「ちんたら状態」は案外悪くない。
さて、並足をやらずに直ちに走り出す馬も少なくない。やる気満々かと思いきや……。我慢が利かずにスイッチが入ってしまい、行かせるしかないのかもしれない。馬は不安になると走りたくなる。レースの緊張感は苦手でも、単独でのびのびと走りたいのだ。
こう見ていくと、忙しい中でも検討ファクターが多すぎる。「分からないから競馬は面白い」とは識者の至言ではあるが、ちょっとくらいは分かりたいではないか。
唯一はっきりしていることがあった。ゲートインをイヤがる馬。走りたくないのが明々白々。でも、それが分かったところでもう馬券を買えない。そんな馬は、パドック、地下馬道、そして返し馬の段階で早めに馬脚を現してほしいんだな。
【プロフィール】すどう・やすたか 1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2020年1月31日号