自分の身に何が起こっていたのか、ようやくわかってきた。香川県時代、結愛ちゃんへのしつけを巡って夫から一日数時間にも及ぶ説教を受けていた。当初、夫に疑問を抱いていた優里も、「夫は結愛を思うゆえに叱ってくれているんだ」というように、それを受け入れた。知らずして夫に支配されていた。
《だけど、私がDVの被害者だったらどうなるの。そんなの言い訳だよね》
問題の本質が見えつつあっても、自分を許すことはできなかったようだ。年末にやはり自殺を試みる。
《平成30年が終わってしまう。ラジオからは楽しそうな音楽、人の声、雰囲気が伝わってくる。私には関係のないことだ。恐怖でもある。今年中に決着をつけよう。(略) 一瞬でもいい。一瞬でもいいから結愛への愛をみんなにもわかりやすく表現したい。感情表現の苦手な私には、もうこの方法しかない》
そんな時弁護士から手紙が届いた。「一緒に乗り越えましょう」。弁護士の言葉に涙が止まらなかった。
《私がひどく落ち込んでいる時も「頑張れ」とは言わない。必ず「一緒に頑張ろう」と言う。面会終了後、必ず笑顔で手を振って「バイバイ。また会いにくるからね~」と言う》
死ぬことだけが結愛ちゃんへの償いと考えていた優里に小さな変化が訪れていた。
《死んだら結愛に会えるはずと、ずっと思ってきた。本当にそうなのか、死ぬことが正しい道なのか、他に何か方法があるのではないか》
2019年年初、千葉県野田市で起きた虐待死事件が報道された。小学4年生の女児が命を落とした。この事件でも、娘への虐待のほか父親から母親へのDVが指摘されている。優里は2月4日にこのニュースに接した。
《悲しいニュースがラジオから聞こえてきた。私と同じような母親が、また子供を見殺した。彼女の日々を思うと胸が苦しい。きっと夫の顔色にびくびくし、夫のご機嫌を取ろうとしていたに違いない。私もそうだったから》