◆100万円使い切るまでギャンブルはやめない
ギャンブルは好んでやった。タイトル戦で韓国を訪れたときも、時間が空くとカジノに向かった。バカラをやるためだ。
持ち金は100万円。負けている時間のほうが長かったのだが、いっとき、勝ちが続いてもやめないし、残りあと数万になっても「これだけ残っているから」とやめない。結局100万円をすべて使い切って、やっと勝負が終わる。
「こんなところで勝って、運気を使ってはいけない」と依田九段は大真面目に言うのだ。
持ち金の範囲内ならまだいい。韓国に対局に行くと決まってカジノに入り浸りになり、借金をしてまでギャンブルにのめり込むこともあった。「金銭感覚が麻痺し、やめられなかった」と著書『プロ棋士の思考術』(PHP新書)で記している。
◆ガスコンロの消し方がわからず、つけっぱなし
妻の原幸子四段も、新婚当初から依田九段の奇行を度々目の当たりにしてきたという。
原四段が出張で家をあけて帰ってくると、ガスコンロの火がつけっぱなしだったことがあった。依田九段が火をつけたものの、消し方が分からなかったのでそのままにしたというのだ。
また、当時、依田九段はファミコンの「三国志」に凝っていて、朝から晩までやっていた。原四段が仕事に出たときと、2日ほどたって帰ってきたときの、依田九段のテレビの前でコントローラーを握り座っている姿勢が全く同じだった。違うのは、依田九段の周りに、ビールの空き缶や食べ物の空袋などが散らばっていたことくらい。
これほどまでに集中力があるから名人にもなったのだと、妻は妙に感心したという。
妻とは現在、別居中で一人暮らし。料理をしたとき、野菜の切れ端や食べ残しなど生ごみをトイレに流し続け、詰まらせたことも。排泄物もそうなる前の食材も、同じだろうから流してもいいと考えたというのだ。
じつは20歳前後まで、依田九段は無口だった。小学生から成績はほとんど「オール1」だったといい、十代のころは、勉強ができない劣等感が強かった。「こんなアホの話は誰も聞かないだろうし、バカがばれるから」と、しゃべらなかった。
ようやく人前でも話せるようになったのは、新人王などのタイトルを獲得したころからだろうか。驚くほど雄弁になるとともに、自分のことも赤裸々に正直に話すようになった。
依田九段の信条は、「絶対にウソはつかない」。ウソをつくと後々の辻褄合わせが大変になる。本人も過去に「バカだからどんなウソか覚えていられないから、ウソはつかない」と話していた。