天理大・穴井監督が明かす大野の素顔

 2012年のロンドン五輪で、男子柔道は史上初めて金メダルがゼロという一敗地にまみれ、2016年のリオ五輪でも男子73kg級の試合が行われる3日目まで金メダルが男女共になかった。

 試合の日、穴井は「力を出し切ってくれ」という言葉に加え、こんなメッセージを大野に送った。

「勝負には運も必要だよ」

 するとすぐに返信が来た。

「いや、実力で金を勝ち取ります」

 つまり、運・不運には左右されず、圧倒的な自分の柔道で金メダルを獲ると宣言したのだ。 穴井からすれば、自分と同じ失敗をして欲しくなかったからこそのメッセージであったが、それは不要な気遣いだった。リオでの大野は初戦から決勝まで、横四方固め、内股、払い腰、巴投げ、そして小内刈りと、すべて異なる技で勝負を決めた。

 日本発祥の柔道の選手たちは、1964年の東京五輪で柔道が正式種目に採用されて以来、金メダルだけを目指してきた。リオ五輪では、銅メダルに終わった選手がテレビインタビューで謝罪した姿が話題となり、銅メダルを評価しようという国民の声が挙がった。しかし、「金メダル以外はメダルにあらず」の意識は、柔道家なら誰しも抱く。穴井は言う。

「柔道は、投げるか投げられるかの勝負。国際ルールも(一本決着を促すよう)完全決着をつける方向にルール変更を繰り返しています。柔道は勝負が一瞬で決まってしまう可能性がある。柔道ほど失敗が許されない競技はないと思います。野球は4点を奪われたとしても、5得点すれば勝てるじゃないですか? 卓球にしてもバレーボールにしても、得失点を重ねながらセットを奪い合うスポーツですよね。同じ格闘技のレスリングですら、ポイントによって勝敗が決まる。ところが、柔道家にとって、一本を奪われることは『死』ですよね。技ありでさえ、『瀕死状態』。ですから1回戦で負けようが、決勝で負けようが、同じように悔しさは残ります」

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