リオ五輪の大野は、金メダルが決まってもにこりともせず、喜び表現することなく相手に深く一礼して畳を降りた。この立ち居振る舞いには相手を敬う目的と共に、2013年に自身も関与が疑われた天理大の暴力事件も背景にある。先輩部員の1年生部員に対する暴力事件が発覚し、柔道部には活動停止処分が下ると共に、柔道部の主将を務めていた大野は強化指定選手からも外されたのだ。
「あいつだけが責任を負う事案ではありませんでしたが、当時、主将だったということと、世界チャンピオンだったということで、報道が過熱したということが少なからずあった。柔道の面でも、私生活の面でも、粛々とやらなければならないことを全うして、今では押しも押されもせぬ不動のチャンピオンとなった。あの事件の責任を果たしたことで、事件をプラスに転化できたんだと思います」
大野は抜群の破壊力を持つ大外刈りと内股を軸に戦い、巴投げや背負い投げといった技も、そつなくこなす高いレベルのオールラウンダーである。
「大野の強さは一言で、隙がないということ。稽古を見ていても、ふらつかないし、危ない(投げられそうになる)場面がない。対戦相手として、研究しようにも策が浮かばない。負けない強さがある」
穴井はリオからの成長を、コップに注ぐ水で表現した。
「彼はいつも、柔道の試合でも、練習でも、『ギリギリを攻める』と話しています。リオ以前の大野は、練習でもコップに注ぐ水がこぼれてしまうまで練習に励み、自分自身を追い込んでいた。金メダリストとなってからは、水がコップ一杯になり、こぼれる寸前で止めるようになった。要は自身を休めることも覚えてより大人のアスリートになった。東京五輪の金メダル? 私は盤石だと思っています」