特殊詐欺グループの拠点が摘発された、というニュースで見たことがある読者も多いだろう。拠点内には「目標◯◯◯円」「売り上げ◯◯◯%突破」などといった張り紙が掲げてあることも少なくない。中では、いっぱしの営業マンよろしく、詐欺のための、そしていかに多くの金を掠め取るかの教育がなされている。もちろん現場組は「儲けるため」にやっていることだが、リーダー格以上になれば、儲けを出し、金主に上納することが至上命題となる。
金主と書いて「きんしゅ」と呼ぶその言葉は、事業や興行主に資金を提供する人の呼び名だ。詐欺の場合は当然、その詐欺を実行するにあたり、根本の準備資金を提供する人たちのことだ。その人がいなければ詐欺グループは設立されず、実行する力もない。
では、金主とは一体、具体的には誰なのか。
「昔は有名暴力団の二次団体、三次団体のエースが関与していたと聞きますが、最近は金主が一人ではない、という場合もあります。例えば、中部地方のある反社勢力は、一般人が代表の法人を立ち上げ、投資名目で一般人から金を集め、その資金を詐欺に回しているといいます。金主のほとんどは、表向きは自分の金が詐欺に使われているとは知らないことになっているし、知ったところで、金が増えて返ってくるのなら、別にどうだっていいんですよ」
詳しいことは知らないけれど、儲かるビジネスに出資しているだけ。もし、出資先のビジネスが違法なもので、摘発されるようなことがあったとしても、そのビジネスにはまったく関係していないから問題ない。金主の本音は、そんなところか。そして、金主まで自動的に取り締まれる法律も整っていない。
もっと言えば、そういうことはすでに織り込み済みであり、詐欺の末端要員からリーダー格、そしてそこから金主に至るまでに、何人の人間が関与しているか、どれだけ警察当局が捜査しても明らかになることがないほど、組織そのものが複雑に形成されている。反社系の金主であっても、末端に“詐欺費用”が流れる過程で、いわゆる「善意の第三者」に位置する一般企業や一般人を多く巻き込む。こうすることで、末端やリーダー格が逮捕され、当局の苛烈な突き上げ捜査によって全てを吐いたところで、善意の第三者より上に、捜査が進むことはない。この善意の第三者も騙されて詐欺スキームの仕組みに取り込まれているパターンが多いからこそ、末端やリーダー格逮捕以上のニュースが出る訳がないのだ。
名古屋市近辺の反社事情に詳しい男性がこう言うように、例えば全国規模のニュースで報じられるような大規模な投資詐欺事件などで得られた金が、犯罪収益として当局に確認されないまま、次の詐欺の資金に充当されている場合もある。結局、詐欺で得られた金は、新たな詐欺に利用され雪だるま式に膨らんでいく仕組みであり、その過程で多くの被害者を、そして金主やリーダーと呼ばれる人々に焚きつけられた多くの加害者が生み出される。これが、特殊詐欺事件が一向に減らない、そして新たな詐欺が次々に生まれる理由なのだ。