国内

特殊詐欺 「金主」が存在する限り一向に減らないのが現実

特殊詐欺アジトからの押収物。組織として“営業”していたことがわかる(時事通信フォト)

 特殊詐欺グループが逮捕されたときのニュースでくりかえされる「リーダー格」という言葉を不思議に思ったことはないだろうか。なぜ、単にリーダーとはせずに「格」をつけるのか。それは、リーダー格と呼ばれる人物が、正確にはそのグループのトップとは言い切れないからだ。ピラミッド型だと言われる特殊詐欺グループのてっぺんに存在する「金主(きんしゅ)」とは誰なのかについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
 いわゆるオレオレ詐欺など「特殊詐欺」は、金に逼迫した若者たちが裕福な中高年を狙う卑劣な犯罪、と言う風に世間には認識されている。実際に特殊詐欺で捕まるのは、ごく普通のどこにでもいそうな若者、そしてうだつの上がらなそうな暴力団員や半グレばかりで、結局こうしたどうしようもない属性の人間が手を染めている、と呆れる人も少なくないだろう。

 しかし、彼らは犯罪組織の末端中の末端。連中のバックには、あまりに計算高くもっと凶悪で巨大な“金主”という存在がある──。

「例えば、今、流行ってるようなタイやらフィリピンから日本に詐欺電話をかける方法。これはあっち(の国)の組織と繋がってなければ無理だし、拠点となる家を借りたり、電話やパソコンなどの道具、かけ子の募集費用や渡航費用、当面の運営費だけ考えても“億”はいる。そんじょそこらの半グレ風情が集まって、はいやりますよって言ってもできないんですよ」

 こう話すのは、かつて特殊詐欺に関わっていた経験のある元暴力団関係者・N氏(40代)。もっとも、N氏が関与していた時代は、現在よりもローカルな単位で、リーズナブルに詐欺が行われていたと説明する。

「まず、ハコ(拠点)、道具(電話帳リストや電話)、人間(かけ子や出し子)の三点セットを準備するところから始まるのですが、全て国内で完結します。取り締まりが厳しくなりハコが警察に狙われ始めると、ハコを仕切る現場の責任者の裁量で、かけ子がビジネスホテルやレンタカー、キャンピングカーを拠点にしたりして、分散していきました。道具、特に電話も入手が困難になり、買えてもバカみたいに高い。受け子や出し子のリスクも高くなる一方で人集めも厳しい。そこで考えられたのが、中国を拠点にした詐欺です」(N氏)

 筆者の調べによれば、2015年頃から、日本を離れ海外に拠点を移す詐欺グループが増え始めた。現地当局や、反社勢力の協力者に渡す“賄賂”分なども含め、それなりの金はかかるが、少なくともハコの運営者やかけ子が逮捕されるリスクを抑えられるのだ。

「結局、まずは電話をしないと始まらない。架空請求ハガキ、架空請求メールよりは格段に実入りがいいんです。いくらか安心して電話ができるようになったら、今度は日本国内で受け子や出し子を探す。まあこの辺は、SNSで適当に引っ掛けた人間を使えば良い」(N氏)

“使えば良い”と軽くいってのけるN氏だが、この結果、出し子や受け子のトラブル、中高生の参入、そして「アポ電強盗殺人」などが起きてしまった。以前筆者が取材した関係者は「強盗は想像したが殺人(の発生)は想像以上」と驚きを隠さなかった。

 ところで、ニュースなどではほとんど論じられないことだが、いくら金に困っているとはいえ「殺し」までやってしまうほど、若者は困窮しているのか。「金持ちの老人が憎い」という一部の若者が抱く妬みこそが、モチベーションになり得ているのか。

「はっきり言うと、特に出し子や受け子はぼんやり“金が欲しい”という人たちばかりです。中には、明日までに10万必要、といって詐欺の門戸を叩く人もいますが、生きる死ぬではない。すると、どうやってタタキ(強盗)や殺しまでするに至るか。それは、金主に絶対に逆らえないという運営側が、彼らにハッパをかけているからに他ならない。詐欺のリーダー格が逮捕された、なんてニュースで言ってますけど、彼らの上には金主がいる。ここから出資された金を増やして上がりを出さなければ、リーダー格はその身すら危ない。それこそ、暴力で屈服させたり、あるいは猛烈な社員教育的なことをやって……。とにかく稼ぐことが第一だと、手下に叩き込む」(N氏)

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン