その試合は阪急の山田久志との投げ合いになり、延長12回の末に0対1。ボクは完投負けです。試合後、西宮球場からバスで大阪まで帰るんですが、車中でノムさんがマイクを持って「おまえら情けない」と始める。自分もノーヒットなのに、1番から順番に、4番を飛ばして小言です。最後に「今日は江本に借りができた。次に江本が投げたら打ってやれよ」と言ってくれた。涙が出たね。
次のロッテ戦では初の完投勝利。ノムさんがベンチで「おまえら(江本には)前の借りがあるんやろ」と言ってくれて逆転勝ちした。そうやって、南海の1年目に16勝です。
ノムさんは緻密なデータ野球といわれるが、実際はさりげない演出で選手を動かしていく人心掌握術に長けた人なんだと思います。ボクも南海での4年間は楽しかった。
亡くなってからご自宅でノムさんに会いました。ヤクルトのユニフォーム姿でしたが、いい顔をしていた。生前よりいい顔でしたね(笑い)。
【PROFILE】えもと・たけのり/東映、南海、阪神で通算113勝。南海での4年間で52勝をあげ、1973年は南海のリーグ優勝にエースとして貢献した。
※週刊ポスト2020年3月13日号