振り返れば、昨年の『おっさんずラブ』で牧凌太という健気で繊細な人物を好演し大人気になった林遣都さん。私がこの役者の魅力に最初に気づかされたのはドラマ『カラマーゾフの兄弟』(2013年)。林さんは精神科医を目指す医大生を演じ、少年のような透明感が印象的でした。
その後、ドラマ『火花』(又吉直樹原作 Netflix制作2016年)では主人公に抜擢され、若手お笑い芸人・徳永を実にみずみずしく滑稽に演じ切り、高い評価を得ました。居場所のない浮遊感や不安感を浮き彫りにし大都会の中での焦りととまどいを抱えた青春のドラマとして素晴らしい仕上がり。林さんは、いわゆる憑依系とか演技派とか上手い役者、というタイプではないかもしれません。どららかと言えば不器用。しかしそれが、夢に向かって格闘する青年の繊細さや透明感を伝える要素になり、この役者にしかない魅力となっていました。
おそらく『火花』において、登場人物がお笑いの技術を磨く漫才シーンとは、昔であれば小説家志望や漫画家、音楽で生きていこうとするいわば自己表現の格闘と通じるものがあります。今どきの若者の姿を描いたのであって、何も林さん自身がお笑い志向かどうかといった問題とは別のはず。今回の朝ドラでは、やたら林さんにお軽いコントのようなシーンをやらせていますが、信作という人物の人間性や内面性を掘り下げないまま、ただ表面的な滑稽さを追いかける演出には首をかしげてしまいます。
働き方改革で朝ドラは土曜日の放送がなくなる方向。半年間の放送はたいへんだからスピンオフの一週間を入れるのも、理解できなくはない。しかし、今後の朝ドラではぜひ「このドラマに出た役者は気の毒だったね」と言われることのないような水準に仕上げてほしいな、と願います。