「受験を乗り切るために大切なことは、“環境と自律”だと思っています。環境という点では、学校や親、友人などが協力体制にあり、自分が“努力できる環境”にあるということ。自律という点では、結局自分自身を甘やかすのも厳しく律するのも自分ですから、集中力や時間の使い方を自らコントロールする力ではないでしょうか」
大野さんが努力する環境を整えてくれたという、家族について尋ねた。
「親が担ってくれていたのは、 兵站やロジスティクスと呼ばれる、軍隊でいう物資の補給や食料の調達という部分だと思います。食事や風呂、掃除などの環境を整えてくれていましたし、雨の日の送迎や予備校のウェブ授業があるときにはそれに合わせて家事をやりくりしてくれました。
勉強しろと言われたことは、人生で一度もありません。むしろ、受験期は勉強以外の話をしてもらえるのがすごく嬉しかった。母はプロ野球の日ハムファンなんですが、その年は優勝した年で。試合が佳境になると“ホームラン打ったよ!”とか報告に来る(笑い)。ぼくも一緒に日本シリーズを見たり、ハイタッチしたり、いい息抜きになっていました」
大野さんの母親(53才・看護師)にその真意を尋ねると、電話の向こうから珠を転がすような笑い声がはじけた。
「東進の保護者説明会に行ったとき、林修先生から、“受験生に大切なことはいつも通りの環境”と 伺ったんです。なので衣食住のサポート体制は守りつつも、『お母さんはお母さんで、いつも通りで過ごさせてもらうね』って宣言したんです。ほんとに受験生の親なんやろかって思うこともありましたけど…(笑い)。本人にも『あの有名な佐藤ママ(4人の子供が全員東大理三に合格した“教育ママ”佐藤亮子さん)みたいにはなられへんかったな』と言ったら、『おかんはおかんでええよ』って言われて。気を使って言ってくれたのかもしれませんが、よかったんかなあと(笑い)」(大野さんの母)
子供を一個人として尊重し、本人のやりたいことをサポートする…そんな教育方針が決まったのは、幼児園のときだという。