日本刀を保存・公開する刀剣博物館学芸員の久保恭子さんは、刀は戦闘様式の変化とともに姿を変えてきた歴史があると指摘する。
「馬上での戦闘なのか、それとも一対一の戦いなのかといった戦闘スタイルを基盤に、日本刀の長さや身幅、反りの加減なども武器として使いやすいように変化しました。
平安時代から室町時代までは、馬で戦いやすいよう刃を下にして腰に佩く(下げること)『太刀』が主流で、室町後期以降は地上戦用に刃を上にして腰にさす『刀』になりました」
刀は戦う男たちの「最後の武器」であるがゆえに重宝されたと久保さんが続ける。
「戦においてはまず弓矢を使い、その後の接近戦で柄の長いなぎなた等を多用し、最後に使用する武器が刀になります。いざ刀を抜くのは本当に自分の命が危ないとき。実際には抜刀することはほとんどありませんでした。このため刀は命の次に大事なものとされて、戦果の褒美や祝い事におけるいちばんの贈答品になっていったのです」
贈答品だからこそ刀は、ある時期から武器でありながらも「美」の側面を併せ持つようになった。
「平安時代に入った頃にはすでに、刀身の切れ味にこだわるだけでなく外装に複雑なあしらいをするようになりました。例えば、奈良の春日大社にある国宝『金地螺鈿毛抜形太刀』は古い拵えですが、細工が施された螺鈿や蒔絵の技法は目を見張る美しさです。当時、それほどの技術者がいたことと、現代までその技術を伝える保存の素晴らしさに感服します」(久保さん)
現代の女性たちがまず魅了されたのが、このビジュアルの美しさだ。刀の宿り神が見える少年が活躍する人気漫画『KATANA』の作者・かまたきみこさんもその1人だ。
「最初に刀の美しさに気がついたのは2004年。当時は刀ブームは影も形もなく、新しい漫画の題材を探していたとき、たまたま掲載する雑誌がミステリーやホラー漫画の専門誌だったから、怖い要素として日本刀を扱うのはどうだろうか、と考えたんです。そんな状態でゼロから刀のことを勉強しようと思って実物を見てみると、刃文や地鉄の模様がキラキラと輝いていて単純に『きれいだな』と惹かれたんです。ダイヤモンドがカットの仕方で一つひとつ輝きが違うように、刀も一振りごとに輝きや模様が違う。
それまで刀は男性のものと思っていたけど、こんなに見た目が魅力的であれば絶対に女性の方が好きになるものだな、と強く感じました」(かまたさん)