悲嘆にくれる川本氏を勇気づけたのは、親交のあったドイツ文学者の池内紀氏(2019年逝去)からアドバイスされた、「年を取ってからも元気で生きる3つの秘訣」だった。
そこには「適度な運動」「医者と仲良くする」という2項目に続き、最後にこうあったという。
「『40代の女性と付き合う』というもので、これが実に面白い。交際するのではなく、茶飲み友達でいいんです。やはり女性と一緒にいると、気持ちが華やいで元気になるものです。
この『40代』というのがミソで、娘の世代の年齢にあたるので何でも話しやすく、間違いが起きません。幸い、僕には食事やお酒を付き合ってくれる編集者や映画関係の女性がいます。長い付き合いなので最近はみんな50代に突入していますけどね(笑い)」
川本氏は、日常生活で女性と接点を持つことの重要性を強調する。
「かかりつけ医を女医さんにすれば、健康面で安心できて気持ちの面でも張りが出ます。私はもう10年くらい同じ女医さんに診てもらっていて、定期検診で通う病院で仲良くなった看護師さんと食事することもあります。
ほかには毎朝1時間散歩した後に喫茶店でサンドイッチを食べながらキレイな女性たちを眺めますが、それだけでも楽しいものです。暮らしのなかで女性との接点があれば、身だしなみにも気をつけて清潔になります」
妻とのかけがえのない思い出を「書く」ことも救いになった。川本氏は死別から2年後に、『いまも、君を想う』を上梓。同書では、日々の食事や散歩、一人旅など折に触れて思い出される妻とのエピソードが描かれている。
〈一人になってしまったいま、一番寂しいのは、こんな無駄話が出来なくなってしまったことだ。
「善福寺川緑地の桜がもうじき満開になるよ」
「塚山公園に行ったらこのあいだまでいた野良猫が姿を消していた」
そんななんでもない会話をする相手がいない。仕方がないから位牌や写真に向かって話しかける〉(『いまも、君を想う』より)