「小さい頃は時代劇が嫌いで。父・梅之助の『遠山の金さん』や『伝七』を観ながら、『あんなくせえ芝居、できねえ』って思っていたんです。でも、世の中がだんだんもっと臭くなってきて、おやじの芝居がリアルに見えるようになってきたんですよね。
同時に、時代劇を知らない人が増えてきたので、これは残さなきゃいけないと思いました。
本番を続けないと、時代劇に関わる専門家、職人さんたちの技術がなくなってしまうわけです。言い伝えや教えるだけでは絶対にだめで、本番でどう工夫するのか、どうすれば役者の動きに合うのか、はじめて分かるわけです。ですので、絶やしてはいけないと」
『夜兎~』のクライマックスでは六分超を1カットで撮る長回しに挑戦、石橋蓮司と二人で感動的な芝居を繰り広げている。
「あの場面を書いてくれた金子成人さんも凄いし、井上昭監督の狙いも素晴らしかった。それに、相手が蓮司さんでしたから。
二人とも狙い合うし、仕掛け合うし、そういうのに乗っかるんですよ。沈黙する場面では、何かが降りてきてるなって二人で思いながらやっていました。
蓮司さんは時代劇の間もできるし、リアルな間もできる。どっちにでも振っていけるんですよね。そういう出会いの良さがありました。他の役者が見て『ああ、くそーっ。あんな芝居しやがって、ちくしょう!』という芝居をやりたかったんです。ロバート・デ・ニーロとロビン・ウィリアムズの『レナードの朝』みたいなね。ああいうのを再現できたかなって、少し思います。
最初はカットを割っていたのですが、芝居をしているうちに井上監督が『1カットでいこう』と言い出して。みんなびっくりしていましたが、僕と蓮司さんは『よし』と。安心して任せられるチームでしたから」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/黒石あみ
※週刊ポスト2020年3月13日号