ちょうど「ダイヤモンド・プリンセス」が横浜に入港した日(2月3日)のことである。その後、国内初の死亡者が出た後も加藤勝信・厚労相は、「流行している状況ではないとの(総理の)見解を変更する根拠はない」(2月14日)と、なおも“安全デマ”を通し続けた。
WHOも同じだ。テドロス事務局長は武漢が封鎖されても、「発生を制御する中国の能力に自信を持っている」「渡航を制限する理由は見当たらない」と言い、中国の感染者が2万4000人となっても、「(ウイルス拡大阻止の)絶好のチャンスだ。中国が高レベルの強力な対抗措置を講じている」と礼賛し、感染者が50か国以上に拡大した今なおパンデミック宣言さえしていない。
国民は日本政府から正しい情報を与えられないことに不安をつのらせていった。クルーズ船の悲惨な感染拡大を目の当たりにし、北海道には緊急事態宣言が出されたのに、熱が出て病院に行っても新型コロナの検査をしてもらえない。
そのうえWHOの情報提供不足で世界的に恐怖心理が高まり、日本人が海外で不当な差別や迫害さえ受けるようになった。どこにも頼れないという不安が、デマをどんどん拡散させる土壌を作った。心理学者の富田隆氏(駒沢女子大元教授)が指摘する。
「正確な情報が伝わっていない社会の状況だとデマが広がりやすい。どんな予防をすればいいか、熱が出たらどうするのか、わからないから不安で目の前にある不確かな情報、つまりデマにすがるようになる。必要のない買い占めが起きる。日本政府がいま何が起きていて、これからどうなるかを科学的な根拠を示しながら合理的に説明すれば、今のようなデマ社会になることはなかった。
新型コロナについては、政府にもまだわからない部分も多い。そうであれば、『ここまではわかっている』と国民に開示し、不明な点については『それについては確認している。分かり次第公表する』と伝えればよい。政府がしっかり国民と向き合って情報を出しさえすればデマも次第に収束に向かうはずです」
※週刊ポスト2020年3月20日号