ハロウィンの飾り箱に隠されてアメリカに届いた孫毅のSOS (C)2018 Flying Cloud Productions, Inc.

◆北京のエンジニアとオレゴンの主婦

 リー監督のネットワークが探し出したのは、北京に住むエンジニアの孫毅(スン・イ)だ。スカイプを通じてリー監督と対面した孫は、自らのプロフィールを語った。

 石油会社に勤務するエリートだった孫は1997年から中国気功・法輪功の学習者となった。その後、中国共産党は法輪功を「非合法」にして弾圧を開始し、孫は会社を懲戒解雇されて当局の監視対象になった。北京五輪を控えた2008年には締めつけがさらに厳しくなり、迫害に負けず法輪功の広報活動を続けていた孫は同年2月に馬三家労働教養所に送られた。

 そこで待っていたのは、休日抜きで1日15時間以上も続く強制労働と洗脳工作だった。孫は何度も失神するほど体を引っ張られたり、両手を固定されて昼夜吊るされるなど凄惨な拷問を受けたが、決して自らの信念を曲げなかった。こうした強制労働や拷問の様子は、映画の中で、孫自身が作成したイラストをもとに再現されている。

 筆舌に尽くしがたい日々の中、毎日の労働で作製するハロウィンの飾り物が英語圏に輸出されることに気づいた孫は、夜中に厳しい監視の目をくぐってベッドの中で労働教養所の実態を手紙に綴り、こっそり箱の中に入れた。決死の覚悟だったが、幸いにして看守に見つかることはなく、孫は2年半の「刑期」を終えて釈放された。

 その手紙を遠くアメリカに住むジュリーが奇跡的に発見すると、国際社会は中国に厳しい目を注ぐようになり、2013年11月に中国は馬三家労働教養所を閉鎖したが、法輪功の迫害はやめなかった。2016年にリー監督と初めてスカイプで対面した孫は、法輪功迫害の実態を世界に知らしめる映画をつくるため、自ら中国国内で撮影することを提案した。

「孫さんの身の危険を考えて、映画制作に踏み込んでいいのか悩みましたが、彼は『中国の現状を世界に伝えて法輪功への迫害を止めるには、リスクを負っても映画を作るしかない。私は中国のリアリティを伝えたい』と申し出ました。そこで私がスカイプで撮影技術を教えて、彼が撮影することになりました」(リー監督)

 こうして極秘裏に映画制作が始まった。孫と複数の協力者がキヤノンの一眼レフやiPhoneで中国国内をひそかに撮影し、撮りためたデータは暗号化してリー監督に渡した。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン