スリムクラブで重要な役割を担っていたという真栄田
ツッコミ担当の内間は、途端にウケなくなった理由をこう分析する。内間も身長180センチと背は高いが、真栄田とは対照的にいかにも頼りなさげで、ひょろりとしている。
「色気でしょうね。M-1の決勝を控え、どこかで気負っていた。優勝しようとかまでは考えてませんでしたけど、全国ネットなので、いい格好したいじゃないですか。ウケるでしょう、おもしろいでしょうを全面的に出し過ぎてたんだと思います。うちらのネタって、ちゃんとしたボケじゃない。なので、雰囲気ありき。力めば力むほど、そのよさが消えてしまうんです」
漫才と観客の関係性は、イソップ童話『北風と太陽』を想起させる。この物語は、互いに力自慢をしていた北風と太陽が、ある日、旅人のコートをどちらが先に脱がせることができるか勝負しようとなったところから始まる。先攻の北風は勢いよく風を吹き付け、力づくでコートを剥ごうとする。ところが、旅人はコートの前を手でしっかりと合わせ、風に負けまいと抵抗する。一方、北風に代わって登場した太陽は、旅人に燦々と陽光を浴びせる。すると、その陽気に誘われるように旅人は自らコートを脱ぎ捨てる。太陽に軍配、という物語だ。
人に何かを望むとき、力で行くとかえって抵抗に遭う。一方、優しさで包みこめば、相手は体の力を抜き、心を許してくれる。様々な解釈があるとは思うが、そんな教訓を連想させる物語でもある。
漫才も似たところがある。演者が無理やり笑わせようとし過ぎると、客はかえって固くなってしまうのだ。この時期のスリムクラブは、言うなれば「北風」だった。
◆決勝の舞台裏で「今までありがとうございます」
M-1決勝の本番直前、そんな真栄田を変えたのは相方の内間だった。失敗する予感に支配されていた真栄田は、突然、左肩に重さを感じた。横を向くと、内間が自分の肩に手を置き、感極まった表情をしていた。そして声を震わせながら言った。
「(真栄田)賢さん、今までありがとうございます」
あまりに場違いなセリフに真栄田は当惑した。
「えっ? 今日で解散すんの?」
内間は笑って「……いや、そういうことじゃなくて」と否定し、神妙な面持ちで続けた。