国内

111歳の日本人教師死去 台湾の教え子から届いた最後の言葉

台湾の教え子たちと交流を続けた高木さん

台湾の教え子たちと交流を続けた高木さん

 去る2月28日、熊本県玉名市在住の高木波恵さんという女性が、111歳と5か月という長寿で息を引き取った。葬儀には台北駐福岡経済文化弁事処の陳忠正処長(総領事に相当)が駆けつけ「先生の恩義を、決して台湾の国民は忘れません」と日本語で弔辞を朗読。さらに地元テレビ局2社も取材に入り、斎場でカメラをまわした。

 高木さんは熊本有数のご長寿だったとはいえ、決して特別な肩書きのある人物ではない。にもかかわらず、外交官が「台湾を代表して挨拶したい」とまで述べて惜しんだのには、理由がある。

 高木さんは20代の頃に日本統治下の台湾で小学校教師として約10年間働き、終戦を迎えた。戦後は故郷・熊本に引き揚げたため台湾人の教え子たちとは離れ離れになっていたが、長く文通は続いていた。だが、1999年に台湾中部大地震が発生すると、その糸もぷっつりと途切れ、音信不通になってしまった。

 転機となったのは、2015年2月。台湾で大ヒットした映画『KANO』の日本公開を知った高木さんは、久しぶりに台湾の教え子たちに手紙を送ろうと思いついた。『KANO』は日本統治下に実在した嘉義農林学校(現・国立嘉義大学)の野球部が1931年に海を渡って甲子園に出場し、準優勝するまでを描いたスポーツドラマだ。

 自身が教鞭をとっていた烏日公学校(台中市)近くの役場で映画のモデルとなった決勝戦をラジオ中継で聞いていたという高木さんは、娘の恵子さん(81歳)に代筆を頼み、墨痕鮮やかな筆書きの手紙を和紙にしたためた。そして、かつて級長をしていた教え子のもとへと送った。

 だが、過去の住所表記が変更されていたため、封筒は「宛先不明」の郵便物として扱われ、台中市の烏日郵便局でいったん足止めされてしまう。あわや日本へと送り返されそうになっていたが、郵便局員の陳恵澤さんは高木さんの封筒を見て、感じ取るものがあった。

「昔の住所が書かれた毛筆の分厚い手紙です。大切なものに違いないと一目見て直感し、これは絶対に届けなくてはいけないと思いました」(陳さん)

関連記事

トピックス

吉野家が異物混入を認め謝罪した(時事通信、右は吉野家提供)
《吉野家で異物混入》黄ばんだ“謎の白い物体”が湯呑みに付着、店員からは「湯呑みを取り上げられて…」運営元は事実を認めて「現物残っておらず原因特定に至らない」「衛生管理の徹底を実施する」と回答
NEWSポストセブン
大東さんが掃除をしていた王将本社ビル前の様子(写真/時事通信フォト
《「餃子の王将」社長射殺事件の初公判》無罪主張の田中幸雄被告は「大きなシノギもなかった」「陽気な性格」というエピソードも…「“決して”犯人ではありません」今後は黙秘貫くか
NEWSポストセブン
小磯の鼻を散策された上皇ご夫妻(2025年10月。読者提供)
美智子さまの大腿骨手術を担当した医師が収賄容疑で逮捕 家のローンは返済中、子供たちは私大医学部へ進学、それでもお金に困っている様子はなく…名医の隠された素顔
女性セブン
英放送局・BBCのスポーツキャスターであるエマ・ルイーズ・ジョーンズ(Instagramより)
《英・BBCキャスターの“穴のあいた恥ずかしい服”投稿》それでも「セクハラに毅然とした態度」で確固たる地位築く
NEWSポストセブン
北朝鮮の金正恩総書記(右)の後継候補とされる娘のジュエ氏(写真/朝鮮通信=時事)
北朝鮮・金正恩氏の後継候補である娘・ジュエ氏、漢字表記「主愛」が改名されている可能性を専門家が指摘 “革命の血統”の後継者として与えられる可能性が高い文字とは
週刊ポスト
箱わなによるクマ捕獲をためらうエリアも(時事通信フォト)
「箱わなで無差別に獲るなんて、クマの命を尊重しないやり方」北海道・知床で唱えられる“クマ保護”の主張 町によって価値観の違いも【揺れる現場ルポ】
週刊ポスト
火災発生後、室内から見たリアルな状況(FBより)
《やっと授かった乳児も犠牲に…》「“家”という名の煉獄に閉じ込められた」九死に一生を得た住民が回想する、絶望の光景【香港マンション火災】
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン