国内

富山の10代人工妊娠中絶が激減、産婦人科医の“出張授業”の内容

なぜ富山市では20才未満の中絶が減ったのか

 掲載したグラフを見てほしい。富山市における10代の人工妊娠中絶率はこの5~6年、女子の人口1000人あたり1人前後の割合で推移している。全国平均は6人前後で、福岡県や沖縄県などは10人前後。いかに富山市の数値が低いかがわかるだろう。

 しかし、10年ほど前は7人前後と、現在の倍以上の数値を記録していた。急激に減った背景には何があったのか。

「1990年代末期以降、子供たちの性が商品化されました(女性が金銭などを目的として交際相手を募集し、性行為などを行う売春の一形態である「援助交際」や、女子高生の中古の制服や体操服、靴下、下着などを販売する「ブルセラショップ」などの流行を指す)。

 一方で学校や家庭で性教育がほとんどなされてこなかったため、全国で人工妊娠中絶が急増。多くの中・高生には、“1回の性交で妊娠する”という認識はなく、さらに、性感染症予防や避妊の知識もないまま、性交経験率が上がりました。そこで、私たち産婦人科医と富山市は協力し、1991年から性教育の出張授業を始め、性の健康教育を浸透させていったのです」

 そう教えてくれたのは、産婦人科医の種部(たねべ)恭子さんだ。

◆性交に危機感がない10代が増加

 そもそもなぜ、学校で性教育が行われなくなったのか。それは1997年の「七生養護学校事件」が発端になっている。

 この事件は、都立の養護学校の教員と保護者が協力し、知的障がいを持つ子供に対する独自の性教育プログラムを開発したことに始まる。障がいを持つ子供は性暴力被害に遭いやすい。だから障がい児にも理解できるよう、性器の部位や名称などを具体的に盛り込んだ歌や、人形を使った授業を行ったのだ。これは、ほかの養護学校からも授業に取り入れたいと好評だった。

 しかし、当時の都議会議員が、その授業内容を「常識とかけ離れた教育」「不適切」などと批判。マスコミの多くも、「都内の公立小中学校や養護学校で不適切な性教育が行われていた」などと報道したことから、性教育が“子供には刺激の強いもの”として、タブー視されることになったのだ。

 それ以降は、前述の通り、文部科学省の学習指導要領から、「性交」や「避妊」という言葉が消えた。男女の体の違いや、排卵や生理の仕組みを教えても、肝心の「妊娠はどうして起こるのか」は、教えられなくなったのだ。

「2000年代は、学校で避妊や妊娠が起こる仕組みについて教えると、保護者などからバッシングを受けることもあり、授業内容が萎縮していったと聞きました。
 こうして日本は、性教育後進国になっていったのです」(種部さん・以下同)

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン