◆「大学入試改革」失敗の教訓
私が文科相補佐官時代に進めていた大学入試改革では、英語4技能や言語活動の充実が20年前の学習指導要領に盛り込まれながら、現場では放置され続けてきたことに業を煮やした政治が、トップダウンで、大学入試に英語4技能試験と記述式問題とAO・推薦入試を入れるべしと改革を主導しました。2013年から7年間かけて議論して一旦は決定して、準備も始まっていたにもかかわらず、直前になって、「時期尚早」「拙速だ」との反対との声が高まって潰れたわけです。結局、有力私立大学は英語4技能と記述式を、国立大学は記述式とAO・推薦型入試を導入することにはなりましたが、それ以外での改革は進まず、格差がさらに広がる結果となりました。現場が対応できないことを政治が押し付けても、結局は、混乱するだけで、混乱はさらなる格差を増大させるだけだというのが、昨年秋の共通テスト改革失敗の教訓です。
9月入学にしても同様で、上から押し付けても現場が動けない、動かないことは十分考えられます。そうなったときの混乱の犠牲者は児童・生徒です。私は、大学と違って、小中高の9月入学については賛成でも反対でもありません。決め方と進め方こそが重要です。小中高の校長の皆さんが保護者や教職員の意見を集約し、子供たちの様子をしっかり見極めながら、主体的に議論して決めることこそが重要です。政治もメディアも、しばし黙りましょう。テレビの視聴率稼ぎのネタや政治家や政党のアピール合戦のネタにしてはいけません。現場と向き合う校長たちによる真剣な議論を見守り、校長たちが出した結論を尊重しましょう。決まったら、政治も官庁も経済界もメディアも労働界も全力で協力すべきです。校長たちが決定の全責任を負うとなれば、より真剣にならざるを得ないでしょう。今回こそは、校長たちが主体的に自分たちで異なる意見をまとめてください。
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「9月入学」という言葉だけがメディアでは躍っているが、現実には論点が整理されていないし、学校現場や保護者の声も聞こえてこない。筆者も小学生の子供を持つ親の一人だが、将来において新型コロナの再流行や他の感染症の流行で学校が休校になる可能性はあるわけで、鈴木教授の「学校の情報化を急げ」とする提言には頷くほかない。
●取材・文/清水典之(フリーライター)