久大本線は2018年に全線復旧したが、日田彦山線の復旧はままならない。なぜなら、日田彦山線の添田駅~夜明駅間は約29.2キロメートルあるが、その区間には5つも橋梁がある。それら橋梁がすべて損壊しており、日田彦山線を復旧するには橋梁を掛け替える必要があるからだ。
線路だけをつくり直す工事と比べると、橋梁を新しく架け替える工事は費用面で比べ物にならない。利用者の多い区間なら、JR九州も惜しみなく多額の費用を投じただろう。
しかし、日田彦山線の同区間は山間地を走っているので沿線人口は少なく、利用者も多くない。今後、増える見込みもない。
そうした状況から、JR九州は復旧に後ろ向きだった。地元自治体はなんとか復旧しようと、JR九州との協議を重ねた。
「JR九州が提案した復旧案は3案ありました。そのなかには、添田駅~夜明駅全線をバス代行にする案、一部の区間を専用道化するBRT案もありました。一部区間を専用道化するといっても、彦山駅~筑前岩屋駅のわずか一駅だけです。この案では、実質的に全線をバス代行するのと変わりません。JR九州の3案だけでは、とても地元自治体は納得しないと考えました。このままでは、地元自治体が議論のテーブルにつくことさえ叶わないでしょう。それでは、議論が前に進みません。そこで、JR九州の3案とは別に私たちで4つの新案を作成したのです」と話すのは、九州の自立を考える会事務局の安武弘光事務局長だ。
九州の自立を考える会は福岡県議を中心に九州の政財界が党派を超えて結成した団体で、企業誘致や地域振興などに取り組んでいる。
日田彦山線は福岡県と大分県を結ぶ貴重な移動手段だが、沿線自治体とJR九州の意識のズレは埋まらず復旧議論は平行線をたどった。そのため、長らく復旧議論は膠着状態に陥っていた。
「日田彦山線の被災区間は福岡県と大分県にまたがり、沿線自治体の添田町・東峰村・日田市それぞれで復旧に対する受け止め方や日田彦山線へのスタンスには濃淡があります。また、被災区間ではありませんが、日田彦山線は北九州市の小倉や田川市も通っているので、そうした自治体の意見も重要です。それらの沿線自治体との調整があるため、簡単には意見がまとまらず、長い歳月をかけた調整が必要になりました」
しかし、不通が長期化すれば、地域の衰退に拍車がかかる。九州の自立を考える会はそれを危惧し、両者の調整を急いだ。