芸能

『捨ててよ、安達さん。』は当て書き炸裂のオンリーワン劇場

番組公式サイトより

 コロナによる撮影延期で、多くが放送スケジュールの大幅な修正を余儀なくされている今季のドラマだが、放映が続いている作品もある。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所の山下柚実氏が分析した。

 * * *
 画面を眺めてニヤニヤしたり、息をのんだり、うなずいたり、ほっこりしたり。純文学のように心をくすぐり、詩のように透明感があって、フォークソングのように愛らしく、上質なコメディのように笑いが出る……こんなドラマ、なかなか見たことがない。とはいえ極力お金はかけてなさそう。一話完結型、登場人物はたいてい3~4人。セリフ中心でロケも少なく、衣装もセットも凡庸。

 でも、一話一話が輝いている。物語の力に浄化される。テレビ東京の深夜枠で放送中の『捨ててよ、安達さん。』(金曜24:52)です。芸歴36年目、“自身役”で主演を務める安達祐実のリアル&フィクションストーリーというこのドラマ。

 物語は……安達さんが女性誌の編集長から「毎号一つ私物を捨てる」という連載企画を持ちかけられるところから始まる。象徴的なのが第1話のエピソード。「同情するなら金をくれ」というあの安達さんの代表作がダビングされた、完パケDVDが俎上にのせられるのです。あれ、この話題ふってもいいのかな? タブーでは? と視聴者もちょっと慌ててしまう。

「同情するなら~」は社会現象になったセリフ。26年前のドラマ『家なき子』は最高視聴率37.2%を記録、安達さんにとって世間に名を知らしめた大作です。であると同時に、もしかしたら触れられたくない暗黒史かもしれません。安達さんと聞けば「同情するなら~」のセリフが耳の奥で響いてしまうほどにインパクトは巨大。本人を縛るやっかいな過去。今でも「地上波での再放送は一度もない」のだとか。

「『不幸な境遇の安達がけなげに生きる姿が共感を呼びましたが、いまの時代では、安達へのいじめ描写が貧困家庭への差別を助長しかねないとして、再放送には慎重になっている』(日テレ関係者)」(「NEWSポストセブン」2020/5/11)。

 さてドラマの中では、安達さんに見られないまま本棚に放置されていたそのDVDが、ある時突然分身の女(貫地谷しほり)として現れ、安達さんに迫る。「同情するなら見ておくれ、見ないなら捨てろ」と。捨てるのかどうか、まさしくドラマチックな決断です。視聴者は固唾を飲んで見守ることに。もうシビれます、この展開。

 炸裂しているのが「当て書き」の力でしょう。「当て書き」とは特定の役者にむけ当てて書かれたセリフのこと。かつて江戸の歌舞伎では、戯作者が人気歌舞伎役者の個性を最大限に生かすためにその手法を使っては大人気を博しました。

 しかし、現代においてはあまり多用されない。極端に再現性が少ないからかもしれません。舞台の戯曲は他の役者によって繰り返し上演されますが、当て書きだとそれができず効率性が悪いからなのか。このドラマは、当て書き手法を駆使して「安達さん」の個性的な歴史を掘り起こし安達さんならではのオンリーワン劇場を作り出していきます。

関連記事

トピックス

実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン