その翌年は、『エール』と同じ福島のドラマ『タチアオイの咲く頃に~会津の結婚~』に。戊辰戦争の確執が残るとされる会津の娘美緒(石橋杏奈)が長州・山口出身の婚約者雄太(中村蒼)を連れてきたことで不機嫌になる父(小木茂光)や明るい母(高橋ひとみ)ら家族の物語。小道具に地元の赤べこなども何気なく使われた福島中央テレビが製作した初のドラマだった。
そして昨年はNHK名古屋放送局制作で『NHKスペシャル』の枠で放送された『詐欺の子』に主演。「老人の『死に金』を社会に還元する義挙」と信じ、東海地方で特殊詐欺を働く青年が、自分が巻き込んだ「受け子」の少年や共犯の仲間が逮捕され、裁判を傍聴したことで被害者の深い傷を知ることになる。
この4作品に共通しているのは、地元で撮影され(『詐欺の子』は実際の事件現場で撮影された)、ドキュメンタリーに近い雰囲気のドラマであること。また、4作品とも日本民間放送連盟賞、ギャラクシー賞、放送文化基金賞などで高く評価されていることだ。アクションや奇抜さ、派手さとは無縁だが、リアリティがあって、登場人物の心情や地域の空気がじわじわと伝わるようなドラマ。中村は悩み多きじわじわ系の俳優として多くの秀作に出演してきたといえる。
『エール』では、じわじわキャラから変化して、ガキ大将で行動力があるイメージになっている。とはいえ、自分が作詞した『福島行進曲』の悪口を言うディレクター廿日市(古田新太)に「あんた、詞書いたことあんのか!?」と食って掛かったが、鼻であしらわれた。ガキ大将役では古田新太にはかないそうにない。ピューッと空の彼方に投げ飛ばされそうだ。まだまだだね、鉄男。