◆スポーツすることの意味とは
「空手界のプリンス」として活躍を期待される西村拳選手(24才)は、「つらいのは自分だけじゃないと思うことで勇気が出た」と語る。
「いまは会社勤めをされている場合は出勤が減ったり、飲食店なら閉業することもあり、医療関係のかたは寝ずの努力をされています。ぼくは大阪に住んでいるので、大阪府知事の吉村洋文さんが『#吉村寝ろ』というハッシュタグが流行るほど不眠不休で働いているのも見て、つらいのは自分だけじゃないと言い聞かせています。
環境の差はあるものの、『自分はいま大変なんだ』と哀れむと、どんどんマイナスが自分に向かってしまう気がする。少し強引にでも、気持ちを前向きにすることも大事だと考えています」(西村選手)
当然のことだと思っていた五輪が遠のくことは、アスリートに「スポーツすることの意味」を問い直させる。
「オリンピックに出るような選手はたくましい。モスクワ五輪の日本代表選手のその後を追跡調査した論文を見ると、多くの選手がオリンピックに出られなかったことですら肯定的にとらえようとしています。不参加となった事実を通じ、スポーツが社会に果たす役割や、スポーツの持つ価値について考える機会ができたと言い、人生においてプラスになったと口を揃えている。
いまも昔もトップアスリートの本質的な部分は変わらない。現役の選手も、延期という経験を自分のなかで必ずプラスに変えるはずです」
そう語る柔道65kg級日本代表だった柏崎克彦さん(68才)さん自身、選手引退後は、五輪不参加を経験し、大学の教員として多くの後進を育て上げた。いま、現役選手らも苦境を逆手に、積極的な発信を始めた。