◆非武装地帯最後の戦闘(2015年8月)
2015年8月4日に発生したDMZ韓国側地域における地雷爆発(韓国兵2人負傷)と、同月20日に発生した北朝鮮軍の韓国側への砲撃が、DMZにおける最後の「戦闘」となった。(2020年6月21日現在)
20日の砲撃事案では、北朝鮮軍が午後3時53分に14.5ミリ対空砲で砲弾1発を発射、さらに19分後の4時12分に数発の76.2ミリ砲を軍事境界線(DMZ中央部に設定されている境界線)の南側約700メートルのDMZ内へ着弾させた。
これについて『労働新聞』は、「8月20日午後、傀儡軍好戦狂は我が軍が南側に砲弾1発を発射したという、ありもしない口実で我が軍民警哨所を目標に36発の砲弾を発射した」と報道した。
北朝鮮軍は21日17時に前線地域に限定して「準戦時状態」を発令した。北朝鮮側は48時間以内に韓国が宣伝放送を中止しなければ軍事行動を取ると警告した。
「準戦時状態」の対象が前線地域に限定されているのは、強硬姿勢を打ち出す一方で大きな衝突を回避しようという思惑があったのだろう。
前述した砲撃とは別に、22日午後、板門店で南北高官級会談が行われているにもかかわらず、DMZ付近に76.2ミリ砲を配置して射撃訓練を行った。これは、韓国側の北朝鮮に対する拡声器放送の施設を攻撃するための準備と思われた。
これを受けて韓国は、DMZに近い地域に居住する住民4000人に避難命令を出した。さらに、米韓軍は、対北朝鮮情報監視態勢である「ウォッチコン」を「3」から「2」に引き上げ、北朝鮮軍に対する監視を強化した。
22日から板門店で行われていた南北高官級会談は25日午前0時55分に合意に達し、「共同報道文」が発表された。北朝鮮は地雷爆発事件について遺憾の意を表明し、前線地帯の「準戦時状態」を解除。これに対し、韓国は拡声器による宣伝放送を25日正午から中止した。
「準戦時状態」は1968年の「プエブロ号事件」、1976年の「板門店ポプラ事件」、1983年の米韓合同演習「チームスピリット」実施時、1993年の北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)脱退宣言時、2010年の北朝鮮軍が韓国の延坪島を砲撃した際などにも発令されている。
「準戦時状態」が発令されると、最高司令部の指揮下で対象地域のすべての機関が戦時状態への転換に向けて準備を行う。このため、経済活動が停止することになり、北朝鮮も大きなダメージを負うことになる。