政府の観光支援事業「GoTo トラベル」キャンペーン開始直前に東京は除外された(時事通信フォト)
いまやエンタメは瀕死の状態、不要不急の職業に従事する者など疫禍のうっぷん晴らしのための生贄候補だ。それを都知事も府知事もよくわかっている。この奇妙な分断はコロナ発生以来、延々と続いている。曖昧で強力な政治は国民の分断と思考停止に最適だ。
「とにかく休業再要請には従いませんよ。それは私たちパチンコ業界だけじゃない、今回は民間企業すべての総意でしょう」
あくまで西口さんの意見であり、総意かどうかはわからないが、私もうなずかざるを得ない部分はある。みなコロナで死ぬより経済で死ぬほうが怖いのだ。
ただ西口さんの従わないという強い決意は営業面だけの問題ではないように思う。曖昧なままにコロナ禍の主犯のようにあげつらわれ、生贄となったあの緊急事態宣言下、クラスターも発生させることなく耐えたパチンコ業界、みなそんなことなど無かったかのようにパチ屋を無視して、ホストクラブだ、小劇場だ、ニューハーフショーパブだと面白おかしい魔女狩りにご執心だ。アルベール・カミュの『ペスト』の民衆さながら日本国民は不機嫌で、新たなバッシングの矛先を喜々として探している。まさか日本人が日本人を差別するディストピア、「たかがパチンコ」に始まったコロナ差別の対象が、いまや都民1300万人に対する差別に至るとは思わなかったが ――― 。
西口さんの言う通り、この体たらくでは誰も休業再要請など従わないだろう。私たちはコロナと生きる覚悟をするしかないのだ。政府、野党、知事 ――― 彼らの覚悟の揺らぎこそ、あいまいな発表と国民に対する投げっぱなしの姿勢が、無用の差別と人心の分断を生んでいる。
●日野百草/ひの・ひゃくそう。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ正会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。