コロナ禍で認知機能低下のピンチ!

 6年前、サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に来てからも母はひとりでも近所の散歩を欠かさず、おかげで認知症でも穏やかで意欲的な生活が送れていると思っていた。 そこへ新型コロナの流行だ。

 週3回のデイケアは休止。行き帰りの道が結構楽しい定期通院も1月末を最後に、私が代わりに病院へ行き、薬の処方をしてもらっていた。母がまともに外に出たのは、「男に付け狙われている」という不穏な電話をしてきたので、慌てて散歩に連れ出したのを含めて3回。不要不急の外出自粛で、用事のない高齢者が外に出るのは至難の業なのだ。

 苦肉の策といっては何だが、6月末、思い切って母を連れ、5か月ぶりの定期受診を果たした。小雨の中、20分ほどゆっくり歩く、久しぶりの遠出。落ち着かない様子の母は、診察室でも表情が硬かった。

「やはり少し認知機能が落ちましたね。認知症の人には生活の刺激がとても大事なの」

 予想してはいたものの医師の言葉はズッシリ重かった。クリニックを出ると雨は上がり、日が差していた。

 大通りから野花が咲く小道に入ったが、話すことも見つからず無言で歩いていると、道の真ん中に大きなミミズがグニャグニャとのたうち回っている。鳥肌が立った。見ると母もマスク越しにものすごい形相。気持ち悪くて何だかおかしい“キモおかしい”表情だ。「やだ~」と言いつつ覗き込んでみたりもする母。

 すると今度は黒いものがサッと横切った。トカゲだ! 思わずふたりでのけ反り、顔を見合わせて笑った。母の硬い殻が破れたようだった。こういうドキドキ、やはり外でなければ味わえない。苦難の続く夏になりそうだが、ちょっと待ち遠しく思えた。

※女性セブン2020年8月13日号

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