『ありがとう。さようなら』
夜になり、皆が眠りに落ちるが、ただ1人、裕之だけがそっと起き上がる。そして、まるで導かれるかのように海へ向かって歩き出し、沖に出ても、足元を見ることなく、ずっと前を見たまま歩みを止めない。激戦地で精神を蝕まれた裕之が入水自殺を試みるシーンを、前出の視聴者女性が語る。
「裕之がいなくなったことに気がついた兄の修と世津が、彼を捜しに行きます。そして、沖から裕之を必死に連れ戻すのです。そのとき、あれだけ朗らかだった裕之が、『怖いよぉ…』と泣きながら、『おれだけ死なんわけにいかん…死なんわけにいかん!』と強く慟哭の声をあげたのです。
胸を打たれました。死を恐れながらも、同時に、死と向き合わずに戦地から逃げている自分を許せない、と揺れ動くストイックすぎる姿が、なぜか三浦さんと重なってしまって…」
その後、裕之は予定よりも早く戦地に戻ることを自らの意志で決める。
「自分が安全な場所にいる間にも仲間は次々と死んでいっていることが耐えられなかったのでしょう。その表情は、“戦争に勝つため”ではなく“死に場所を探すため”、いまいる場を去ろうとしているようにも見えました」(前出・視聴者女性)
家族に見送られ、家を後にする裕之。心配そうな家族をよそに、一度も振り返ることなく再び戦地へと旅立った。
その後の裕之の命運について、家族は一通の手紙で知ることになる。それは、特攻隊員を志願し、出撃する前に母に向けて書かれた、最期の手紙だった。
「親不孝を詫び、心残りはないと言い、これが届く頃に戦果をあげますと誓う手紙が、三浦さんの声で読み上げられて…。一言一言を噛みしめるように読み上げるなか、『裕之は御国のため、笑って死にます』という言葉を聞いたときには、頭の中にぱっと三浦さんの満面の笑みが浮かびました。同じ思いのかたが多かったのでしょう。このシーンが流れると、上映室にはすすり泣きの声がこだまして、私も嗚咽がこらえられませんでした」(前出・視聴者女性)
その手紙は『ありがとう。さようなら』と結ばれていた。淡々と読み上げるはずだったであろう三浦さんの声は、そのとき小さく震えていたという。
家族を心配させないように、見てきたものや聞いてきたものを語らず、本音を隠し通したまま、自ら死に向かった裕之。彼を演じた三浦さん自身もまた、視聴者と同様に、役柄と自分自身を重ね合わせることがあったのだろう。三浦さんの知人がうつむきがちに語る。
「自分の素を見せず、役に没頭できる役者という仕事は、春馬にとって現実の人生からの格好の逃げ場だったのかもしれません。が、役に入り込むあまり、その逃げ場と自分の人生がぴたりと重なり、演じ終わっても離すことができなくなってしまっていた。あれからもう1か月が経とうとしていますが、なぜ春馬が旅立つ選択をしたのか、考えても考えても、答えが見つかりません」
生前、三浦さんは《僕たちの仕事は想像力を皆様に届ける仕事ですし、この作品を通してみなさんが戦争というものを考える大きなきっかけになればと思っています》と、このドラマにコメントを寄せていた。その願いは、あの端正な笑顔や愁いを帯びた横顔とともに、『太陽の子』に刻み込まれている。
※女性セブン2020年8月20・27日号