映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、役者の家に生まれた下條アトムが、過去に共演した萩原健一さん、渥美清さん、緒形拳さんについて語った言葉を春日氏がお届けする。
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下條アトムは『信子とおばあちゃん』(一九六九年)、『藍より青く』(七二年)というNHK朝の連続テレビ小説に出演したことをきっかけに、俳優としての仕事を増やしていった。
「その辺りから食えるようになって、とんとん拍子で三十ぐらいまではやらせてもらいました。
ただ、そのせいで、なかなか売れなくて我慢することを知って…自分を押し出すだけが役者ではない──という世界でやってきた人が四十・五十になって売れた場合に比べると人間の深みがなかなか出ないんですよね。
一つ受けたらば、『よし、よかった』とひと息ついたり。台本を三冊ぐらい掛け持ちしてないと落ち着かないとかいうこともありましたね。そういう時期のテレビドラマを駆け抜けました。
そのおかげで他の仕事をしないで、生業として食えてきたというのはあります」
七三年には萩原健一主演の時代劇『風の中のあいつ』(TBS)に出演、萩原扮する主人公の渡世人「黒駒の勝蔵」と共に旅する弟分を演じた。
「ショーケンはやんちゃなところがありましたから、現場は大変でした。よく前田吟ちゃんが間に入っていました。でも、ショーケンは作品に対するピュアな情熱があったから、やっていて楽しかった。何を言ってきても、愛嬌があるから許せちゃう。
作品自体も楽しかったですね。何をやってもいい。監督も含めて『面白くやれ』という感じで規制がありませんでした。ショーケン自体もそうでしたが、既成のものを壊していきたいっていうエネルギーがありました。
今の若い子はびっくりするくらい大人っぽい。ですから、生意気な人をときどき見ると、『あっ、こいついける』と思っちゃうんですよね」