芸能

映画『劇場』が共感を呼ぶ理由「かつての私の恋のよう」

映画『劇場』完成記念イベントに出席した又吉直樹(左)と松岡茉優(中央)、山崎賢人(写真/時事通信フォト)

 ピース・又吉直樹(40才)の小説が原作の映画『劇場』が大きな反響を呼んでいる。全国のミニシアターとAmazon Prime Videoで7月17日から同日公開された本作は、全国18館での公開ながら初日から3日間で観客動員数4000人を超え、SNSや口コミでも「胸に刺さった」「感情移入しすぎて見るのが辛い」「普遍的な恋愛映画のようで違う」など、さまざまな口コミで溢れた。新型コロナウイルスの影響で映画館が苦境に立たされる中Amazonで同日配信されたこともあって、本作はまだ広がりを見せそうだ。映画や演劇などに詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

 * * *
「一番会いたい人に会いに行く。そんな当たり前のことが、なんでできへんかったんやろな」――。本作の象徴的なセリフがそのままキャッチコピーになった映画『劇場』。本作は、山崎賢人演じる主人公・永田が演劇に情熱を注ぎ、それを松岡茉優演じるヒロイン・沙希が献身的に支える日々を描いた恋愛物語。公開がスタートすると、世代を問わず多くの人々の反響が続々と寄せられた。数ある恋愛映画の中でも一際注目度の高い本作。なぜこれほど多くの人々に支持されるのか。

 まず触れたいのが、この映画は芸人であり芥川賞作家である又吉直樹の小説が元となっていること。原作の『劇場』(新潮社)は、今年5月の発売から3か月足らずで累計50万部超えの大ヒットを記録しており、さらに映画化にあたり、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や『ナラタージュ』(2017年)などで知られる行定勲監督(52才)が映画化したことでも大きな注目を集めていた。若手実力派とされる山崎賢人(25才)と松岡茉優(25才)が主演を務め、両者ともにこれまでにない新たな表現を見せていることも話題を呼んだ要因の一つだ。映画を見て「最後まで2人の演技に引き込まれた」と話す人は多かった。

 だが、それ以上に本作が支持された理由は、多くの人々が「この物語は自分の話だ」と受け止め、共感を呼んだことだ。SNSや口コミには、「似た経験をしたことがある」「若い頃の未熟な恋愛を思い出した」といった声が多くあり、実際、誰もが通る「若さ」や「未熟さ」、「脆さ」、生涯で一度は経験する「忘れられない精一杯の恋」を思い起こさせる作品だったと思う。かくいう筆者も作品を見た時、若い頃の自分と重なって複雑な気持ちになった。大人になるにつれて都合の悪いことはほとんど忘れてしまうが、この作品は過去の失敗や恥ずかしい自分をまざまざと蘇らせてしまう、そんな物語だったのだろう。

 そのため本作は、恋愛映画によくある「甘酸っぱさ」や「トキメキ」のような感情にはほとんど触れておらず、“美しい”ラブストーリーとは言えない。むしろ、不器用でぎこちない男女の恋愛が、あえて整えずにそのまま描かれている。

 物語の概要はこうだ。演劇で一旗揚げるため、上京して友人と劇団を立ち上げた永田だが、前衛的な作風が認められず、理想と現実の狭間で悩み孤独を抱えていた。そんな中、ある日街で沙希と出会い、2人の恋が始まる。お金がない永田は沙希の家に転がり込みヒモ同然の暮らしを始めるが、自意識過剰で皮肉屋な永田は、うだつの上がらない自分に沙希が優しくすればするほど苛立ちを覚え始める。唯一永田の才能を認め支えてくれる沙希の優しさに甘えて、次第に傍若無人に振る舞うようになり、振り回される沙希の心はどんどん疲弊していく。

関連キーワード

関連記事

トピックス

永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「日本ではあまりパートナーは目立たない方がいい」高市早苗総理の夫婦の在り方、夫・山本拓氏は“ステルス旦那”発言 「帰ってきたら掃除をして入浴介助」総理が担う介護の壮絶な状況 
女性セブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン