泥棒と一緒にされては困る。これまでのオタク業界でも、ルポでも私自身が経験しているが、出版くずれでアングラに染まったようなこの手の人は無敵。社会的に失うものがないから犯罪を起こすことへの抵抗がない、敵が存在しない、そんな無敵の人に何を言っても無理だ。私はこれを記事にしてもいいかと念を押したが、全然問題ないと言う。確かにさっきのキュレーションサイトの事件ではないが、所詮それ未満の規模でしかないまとめサイト管理人など、たとえバレたとしても、世間は小島さん個人への興味などたいしてないだろうし、失うものもたかが知れている。
「食ってくためには何だってやりますよ。自分に関係のない奴が死んだって知ったこっちゃありません。誰だってそうじゃないですか? あんたもそうでしょ、かっこつけてバカですか。その女子プロレスラー、死んでありがとうって言って炎上してる奴いるの知ってます? 他にも似たような奴いますよ、そいつのとこ行ったらどうですか? そんな奴、手口が違うだけでいっぱいいますよ、みんな他人のことなんかどうでもいいんですよ、嫌ならネットすんなよ!」
「コロナになりました」アカウントもフェイクだらけ
私はこういう人をたくさん見てきた。「死ね」と書いてみたと思えば「叩いた奴を晒せ」と別のアカウントを使ってあおり、自作自演で盛り上げている。思考が言葉になり、言葉が行動になり、行動が習慣になり、習慣は性格になる。そして小島さんの性格が、いま現在の運命につながっている。マザー・テレサの言葉そのままだ。そして「人間がほんとに悪くなると、人を傷つけて喜ぶこと以外に興味を持たなくなる」というゲーテの言葉も思い出す。歴史上の偉人でもこのような人にはお手上げだったのか。どの言葉も真っ当すぎて陳腐に感じるかも知れないが、真正面から受け取ったほうがいい言葉だ。過度のニヒリズムはいずれ死にたくなるからやめておけ。
「偉そうに。個人と思ってなめないほうがいいですよ、きっちり”お話”をする人もうちにはついてますから」
それは弁護士だろうか、小島さんは「きっちりお話をする人」と言っていた。この場合は反社(反社会的勢力)、イリーガルな連中のことだ。脅しているつもりか。それでもこれ以上こじれるのはまずい。私はオタク話でごまかし、他愛もない話のままマンションを後にした。かつてのオタク業界、とくにオタク系、アキバ系小売の劣悪な環境や待遇、そして使い捨ての実態は知っているし小島さんもその口だ。同情はするが、だからといって人様の子を誹謗中傷する、扇動するのは間違っているし、それを商売にするのは悪質過ぎる。しかし皮肉なことにコロナで在宅勤務や学校が休みということもあり、PV数は順調だという。たくさんの見る人がいるから、小島さんのような連中にとっても金になる。お手軽でアンモラルな金稼ぎの道具に成り果てたネットビジネス、職を失った中高年や、働くことのままならない子持ちの主婦にまで広がっている。
「私はコロナになりました、ってアカウントもうちがやってますからね、実際に取材受けてる本物は別にして、うちも含めてフェイクだらけですよ」
しばらく後、インスタントメッセージで届いたこの内容はもう理解の範疇を超えていた。コロナに乗じて悪質なフェイクを撒き散らし、またまとめて金にするのだろうか。小島さんは金のためと言うが、ルサンチマンも垣間見える。