ドームでのビール売り子は重労働(時事通信フォト)

ドームでのビール売り子は重労働(時事通信フォト)

 モモさんが早々にミルクティーを飲み終えてしまったので次の注文を即す。その間にモモさんはスマホをいじる。「お店、お客さんいないみたいなんでまだ大丈夫です」と伏し目がちに笑った。コロナの影響でお店の子たちもお茶をひいている状態だという。

演技では負けないつもり。でも、その程度じゃ生き残れない

「そう、モチベーションです」

 シンプルな答えだが、それがなかったら続くわけもないだろう。人気もなく、仕事もなく、お金もない、これで続く強靭な精神の人もいるだろうが声優は基本仕事を待つのが仕事、続けようにも続けられなくなる。モチベーションを保っても、業界から自然退場となる。現在のモモさんのように。

「声優ってみんなプライドの塊ですよ。だって競争に勝ち残って役を頂いてきたわけで、そもそも声優になること自体が競争ですし、ほとんどの人は事務所どころかまともな養成所に入れません」

 モモさんが「まともな」と付け加えるのは入所の厳しい養成所と、金さえあれば誰でも入れる養成所があることを指している。そんな「まともな」養成所を出て、有名事務所に入ったとしても声優を職業に出来るかは別問題、まして売れるのは一握だ。

「声優としては別のアルバイトをするくらいなら、どんなお仕事でも声のお仕事のほうがずっといいんです。ゲームはエッチなのもありますけど、私はむしろ楽しんでました」

 声のプロはそういう演技も出来て当然、モモさんの言う通りで、私が当時よく起用した若手もレギュラーが数本決まりだすと「やっとドーム(東京ドーム)の売り子を辞められます!」と喜んでいた。声優はどんな仕事でも声で食べていきたいのだ。

「それにそういう作品でもアニメ化されればそのままテレビアニメにキャスティングされます。声優が変わる場合が多いんですけど、そのまま私という場合もあります。そんなチャンスもあるんです」

 ゲームがテレビアニメ化されるときは、ときにキャスティングが変更されることも多かった。ゲーム段階ではモモさんでも、テレビアニメ版では有名声優が声をあてる場合があった。しかしそのまま、あるいは名義を変えてモモさんがキャスティングされることもある。モモさんもそれでテレビアニメに何本か出たことがある。

「本当に嬉しかったですよ、親にも出るから見てねって言えますし、テレビに私の演じるキャラの声が流れて、私の名前が出るんですからね」

 声優志望者の中でテレビアニメ、それも役名つきで出られる声優などごく僅かであり、彼女はその中の選ばれし一人だ。

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